The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


偶然と必然

会計理事 吹抜 洋司

 “トランジスタの発明は偶然か必然か”という問題提起がある.これに対す る答えは“必然のなかで生まれた偶然”とのことである.確かに,当時ベル研 でトランジスタを発明したショックレーらの研究グループは“固体増幅器”を 実現する目的で結成されており,この点が“必然”の部分に相当するのであろ う.しかし,実現に対する期待と自信はあったにせよ確信まではなかったので あろう.この点が“偶然”に相当すると考えられる.同様に,各種の実験的な 発見は偶然か必然かとの問いがある.これは一見は偶然のようにみえる.しか し,これにも必然性がみえる.多くの高名な実験物理学者が何度も歴史的な発 見をしているからだ.やはり実験のねらい,および現象に対する洞察力が並は ずれているからであろう.

 その他,本学会に関連のある興味ある電子計算機,負帰還増幅器,FM 通信 方式,PCM 通信方式,光ファイバ,レーザなどの電子工学分野での重要な発明 についてどのような偶然と必然の要素があったかは興味が尽きない.しかし, 私自身浅学非才のため,個々の発明の説明については省略したい.

 本稿を執筆中に偶然,夏の高校野球の決勝の様子をテレビで放送していた. 日ごろの練習で鍛えた各選手が信じられないようなプレーをして多くのドラマ が生まれた.また,アトランタ・オリンピックでは走幅跳びでカール・ルイス が種々のハンディを乗り越えて優勝し,オリンピック4連勝を成し遂げた.

  人間は目標に向かって努力をする.しかし,いくら努力しても必ず目的を達成 するとはいい難い.そこに“人事を尽くして天命を待つ”という言葉が生じた. ここで必然とは“人間の努力”であり,偶然とは“神の意志”なのかもしれな い.そして目標設定,実現努力ならびに叡智や情熱という“人事”の土台の上 に“天命”という人知を越える要素が加わって初めて成功に結びつくのであろ う.そして,いかに“天命”の要素があるとはいえ,“人事”の要素が大きけ れば大きい程,成功の確率は大きいということができよう.

 翻って本学会を考えるとき,将来の学会の発展を期して“ソサイエテイ制度” が発足した.これは長年にわたる学会関係者の努力の賜物であろう.しかし, 本制度ができただけで学会が発展するわけではない.これには今後,学会関係 者が将来を見極めた高い目標を設定し,叡智や情熱と共に実現に努力するとい う“人事”の要素が大きい程,成功へ道は近いといえるであろう.そのなかで, 私も学会の発展に向けて努力して行きたい.


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