学会の論文誌,研究会,シンポジウムなどは,情報の収集,発信を行う「場」 とみなすことができる.そこで得られた情報に触発され良い結果を生み,また 自分の成果が認められ参照されることで学会の存在意義がある.一方,インター ネットで個人が容易に情報発信し,または関連分野の情報を容易に収集できる ようになると,従来の学会の役割のある部分が,個人の活動でも実現されるこ とになる.実際,研究成果をホームページに載せて世界に向けて公開すること は普通に行われつつある.
今後の電子出版とネットワーク化の方向を考えるとどうしてもこの問題,す なわちコミュニティとしての学会の求心力をどのように保っていくかという問 題にぶつかる.その答えの一つは,個人のネットワーク利用ではできないこと, すなわち学会というコミュニティであるからこそできることを,学会もネット ワークを最大限に有効に使って提供することに尽きると思われる.
例えば,ポイントの一つは付加価値として「質」を高めることであろう.情 報のあふれる時代には,質の高い情報をセレクトして提供する情報フィルタの 役割は大きい.同じ成果でも,一流の研究者が査読・編集してまとめれば,よ り付加価値の高い情報となる.そのためには査読の質,編集の質を今以上に高 めたネットワーク時代の電子論文誌を発行しなければならない.
もう一つ大事なことは学会の電子論文誌は「巨大なデータベースへのリンク」 をもつことである.このリンクは双方向であり,電子論文誌で認められた会員 の論文はそのデータベースに入り,世界からリファーされる.会員は文献検索 も電子論文誌を通じて行える.このためには論文の電子化とデータベース化を 行う体制を確立する必要がある.同時に関連学会間との協力でデータベースの 有効性を高めることも重要である.関連学会とのリンクを効率的に行うには公 共的な情報センターのような機関が果たす役割も意味があろう.
いずれにしても,将来の学会は好むと好まざるとにかかわらずネットワーク 機能を活動に有効に取り込んだサイバー学会になるであろう.しかし,私は会 議がすべてネットワーク上で開催されるのはごめんである.たまには物理的に 離れた非日常的な空間に移動し,直に相手の顔を見て議論したいと思う.