The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会の寿命

会計理事 伊土誠一

 10年以上前になるが,日本経済新聞社が「会社の寿命」シリーズを発刊し, 話題になったことがある.常に新しいことにチャレンジし続けないと,どんな に繁栄している大企業でも 30 年で没落してしまうという法則を具体例をもっ て示した.ここで寿命とは,単に会社が存続しているというのではなく,繁栄 している期間をいう.

 しからば,本学会の寿命はいかに?

 会計理事という立場上,学会の財務上の数字を見る機会が多い.企業の場合 はできるだけ利益を出し,それを株主や社員に還元すればよい.その観点から 売上高,経常利益を中心に株の配当率,社員数などの推移を把握すれば,企業 の栄枯盛衰はおおよそ推測できる.しかし,学会のような社団法人の場合,一 般の企業とは異なり,利益=繁栄とはいかない.活動内容が重要となる.とは いっても,赤字では困る.

 学会の収入は,平成8年度で約 16 億円.その内訳は,全会員から頂く会費 が 37%,学会の活性度を測る目安となる論文誌,研究会,大会収入が 48% である.また,単年度の利益率は 15% であり,平成6年度の会費値上げ以降 順調である.会員も多く,本学会と分野が近い電気学会,情報処理学会,応用 物理学会と比較しても,収入に占める会費の割合は他学会と同程度か低く,利 益率は他学会よりはるかに高い.利益率が 1〜2% で,いつ赤字に転落しても おかしくない学会も多い.しかし,利益率が高いということは財政的にまだ余 裕があることを意味しており,各ソサイエティが今後会員のために種々の施策 を打つことを期待したい.

 良いことばかりではない.学会の基礎体力の目安となる会員数が減少傾向に ある.平成6年度末には4万いた会員が平成7年度末 39,712,平成8年度末 39,488 となっている.この傾向は本学会に限らず他学会も同様であるが,学 会の寿命という面からみると,会員増対策は今後の大きな課題である.

 次に活動内容の面からみたい.平成8年度の総合大会(ソサイエティ大会も 含む)講演件数,論文誌採録件数,研究会発表件数は,それぞれ6,134件, 2,168件,6,629件で,トータルでは14,931件になる.これは会員当りにすると 0.38件である.応用物理学会は一部のデータを公表していないため比較できな いが,部門制をしいている電気学会は 0.42 件/会員,情報処理学会は 0.13 件/会員である.本学会はソサイエティ制に移行してから総合大会と論文の発 表件数が増えており,ソサイエティ制は学会活動の活性化と共に財務体質の改 善にも大いに貢献している.

 我が学会に関していえば,「学会の寿命 30 年」という法則は幸いなことに 今のところ成り立たないようである.そのキーはソサイエティが握っていると いえる.


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