The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


論文の著作権使用料金とは

情報・システムソサイエティ会長 村岡洋一

 既に会員の皆さんが御存知のようにインターネットを通じた学会著作物の提 供試行サービス(いわゆる電子出版)が,学術情報センターから行われている. これについて,同センターから当学会に著作権使用料金をアクセスチャージの 一部として利用者から徴収するか,また徴収するとしたら金額は? という問 合せが来ている.

 もちろん,これについては学会としてしかるべき議論ののちに正式にお答え することになるが,それとは別にソサイエティ運営の観点も含め私見をここで は述べてみたい.

 電子出版について,読者,著者および一般会員の三者の利点を考えてみたい. まず読者であるが,電子出版に期待する利点は,今より安くかつ使いやすく, ということであろう.究極の安さは無料である.使いやすさは,検索の多様性 や省スペースであろう.後者については,電子出版は有利である.

 次に著者であるが,電子出版によってより多くの読者を獲得できれば幸せで ある.加えて,ただでさえ高価になっている掲載別刷代が安くなって欲しい. もちろん出版されたという自己満足が得られる形は残って欲しい.アイデアの 盗用や論文のまるまるの cut and paste は困るが,読んでもらうためならば, コピーの配布でもなんでも自由に許したい,というのが本音ではなかろうか.

 最後に一般会員であるが,学会はどこでも論文誌出版などの学会活動を一般 会員の会費が支えている部分が小さくない.となると,電子出版でもなんでも, それによって会費が低下するなら歓迎というのが本音であろう.

 ということで,結論.電子出版の利用料金を無料にして普及を促進したい. 無料にすれば,三方まるまる得である.とはいっても,最低限のコスト回収に 要する料金は不可避であろうが,これとて昨今の文書作成技術の普及をみれば, 相当の部分は著者の協力で削減できよう.恐らく,査読のための事務費用,永 続的なサーバ構築などくらいしか残らないのではないだろうか.

 残るのは,究極の世界が電子出版のみと考えるか,紙文化との共存と考える か,またもし前者だとして移行期をどうするかだけである.

 通信だとか情報だとかを先導すべき学会として,ここで究極の世界を電子出 版のみと割り切って,壮大な社会実験をしてみるのも責務の一つではなかろう か.失敗したらもとに戻ればいいだけだし,もし学会全体が一度に変化するの が大変なら,それこそ手を上げたソサイエティに先行を許せばいいのではない だろうか.金融の世界ではないけれども,「護送船団方式」はもう時代遅れで ある.

 電子出版の入り口で結論の出ない議論を続けるのがいいか,決断がいいか, 必要ならそれこそ会員の電子投票でもとってみたい.


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