The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


次の世代へ継ぐ

企画・調査理事 津田俊

よく語られることであるが,ヨーロッパの都市を訪ねると,建物の内部は最 新設備を備えたオフィス空間を提供しながら,外観は歴史を感じさせる町並み が実にうまく保存されているのに感心させられることが多々ある.また,数多 くの美術館,博物館が備えられており,時間があればこれらを訪れるのも私の 楽しみの一つである.美術館や博物館では,小中学生の年代の集団を見かける ことも多く,次の世代を担う若い人達に実物に触れて美術や科学技術に興味を 深める機会を提供しており,うらやましい状況が作られている.これらは,ヨー ロッパの人々が,人間の活動の歴史を重んじ, システマティックに次世代へ 継承していこうとする思考の表れではないかと思う.翻って我が国も,古い歴 史と伝統を保存してはいるが,我々も自らかかわっている電子情報通信技術に 関する歴史・技術の継承について,できるところから取組みを強化する必要が あるのではないか,学会はこのような活動を展開するのに核になれるのではな いかということを,企画・調査理事として学会活動に携わってみて意識するよ うになった.

このような目で見てみると,本会にも関連した事業が幾つか行われている. 過去において,無線分野の重要な技術について,残されている機器のリストを 本として編纂されたということを伺っているし,また最近では先月号において 各社における歴史的な技術開発についての特集号が企画される等,技術の歴史 を残していく活動が展開されている.また,若い年代に電子情報通信に対して 興味を持ってもらおうということで,年に10回程度の科学教室も実施している. 科学教室は,その分野の権威の先生方,学生の方にボランティア活動でお願い し大変好評であるが,参加者本人及び父兄の方のアンケートを読ませて頂くの が楽しみの一つである.自分から進んで参加して,非常に面白かったというの が多いが,子供は正直で,中には保護者の方に無理やり参加させられたらしく 「余り来たいとは思わなかったが,来てみたら意外に面白かった.また来てみ たい」というのもあり,思わず微笑むことも多い.

今後も,国の産業基盤としてますます重要性を増す電子情報通信技術につい て,素晴らしい技術を次の世代に継承し,新しい技術を生み出してくれる人材 を確保していくために,学会として何ができるか,皆様と一緒に考えていきた いと思う.


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