The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


首都機能移転問題と学会活動

情報・システムソサイエティ会長 井口征士

 昨年情報・システムソサイエティ誌に寄稿を求められたとき,ひと言,日本 の東京一極集中の現状に触れ,首都機能移転に対して,情報システム技術の果 たすべき役割は大きいと結んだ.最近,地方分権とか首都移転に関する賛否の 意見が活発なので,もう一度触れてみたい.現実には,たとえ「50年先」の話 であったとしても首都移転が実現することはあり得ないと重々承知はしている が,それでもどこかおかしい日本のシステムを反省する材料にはなるであろう.

 地方に住んでいる我々は,大学の教官であれ,企業の研究員であれ,1年に 何十回という割合で東京へ出かける.時には,1時間の会議のために東京を往 復することもまれではない.「これはかなわん」と言いつつ,東京へ出かける 回数が一つの活動のバロメータになっている面もあり,「今週は2回東京を往 復した」という言葉には不満というより自慢が含まれていることも否めない. 私も学会の理事会や委員会,学術会議や学術振興会の委員会,政府系の審査会 などで東京へ出かけるたびに,口で不満を言いつつ内心では快く受け入れてい るのに気づく.それどころか,新幹線や飛行機の中は,電話も来客もない「自 分の時間」であって,実はありがたい環境なのだと喜んでいることさえある.

 しかしそれは帰りの便が確保できているときの話であって,時間が確定して いないスケジュールでは便の確保でまず頭を悩ます.せめて自分が委員長をやっ ている会議の場合は,帰途の足を考えて終了時刻を明記してそれを守る努力を しているが,会議案内の中には,開始時刻だけでいつ終るか分からないものが あったり,夕食に弁当が出る定例の会議で「今日は議事が少なく早めに終るの で食事をやめて軽食にした」と言われると,帰りの新幹線で遅い弁当を食べな がら,「日本=東京なのだなー」との印象を持つ.

 また昨年のある政府系の補助金申請書の募集要項に「1月14日(木)の17:00 までに提出してください.郵送の場合は1月8日(金)の消印有効とします」と あった.これに異議が出せない日本のシステムは異常としか言い難い.締切り に追われる経験を持っている人なら,東京へ持って行けないからといって6日 も早く締切りを設けられてはかなわない,不満を抱くはずである.地方に住む 者のひがみかもしれないが,今の日本ではしばしば東京に住んでいないことの 不利益を受けるようなシステムになっている.

 日本の首都機能集中度は世界でも群を抜いている.米国では,政治,経済, 商業,工業,文化,教育,娯楽などが国全体に散らばっていて,それによって 地域が活性化されている.最近の大型プロジェクトとして注目を浴びているダ イアンネットワークはテネシー州ナッシュビルに本拠地を置いている.学会機 構においても,ヘッドクォータと活動拠点が全土に分散している.

 当学会で現在,本格的な議論が進んでいるソサイエティの独立性の中で,例 えば情報・システムソサイエティは関西で,エレクトロニクスは北海道でとい うような地方分散が起ることを期待したい.行政が地方分散し企業活動や研究 活動が全国に広がれば,せっかく関西に進出してきた情報メディア関連の企業 の研究所が閉鎖を選択することもなかったのではないかと思いを巡らす.

 現在の情報通信技術は機能分散を支援してくれるはずである.いま流行りの グローバル化として地方分権を考えるとき,情報システム技術,ネットワーク 技術が大いに面目を上げるはずである(2月21日,巻頭言にふさわしくない話 題になってしまったが,新幹線の車内で記す).


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