The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


客員会員制による学会活性化

会計理事 酒井保良

 20世紀も残すところ100日を切り,いよいよ21世紀に突入する.

 17世紀の科学革命以来,科学技術は,人類の発展の源泉を担ってきたといっても過言ではなかろう.科学技術の高度化に比例するかのように,その細分化・専門化は留まるところを知らず,それに伴って,多くの学会が誕生してきた.各学会においては,高度な技術論が戦わされる一方,それぞれの専門分野に閉じ込もり,異分野間の交流が希薄になってきたように思われる.ちなみに,本学会においても,複数のソサイエティに登録している会員は,全会員の20%にも満たない状況であり,これがソサイエティ制移行のゆえんでもある.

 来るべき21世紀における「電気通信の研究」においても,更なる専門化傾向が継続すると考えられるが,これと併行して,異分野との交流が進展するだけでなく,部分的にはそれらが融合し,新分野を形成することを期待したい.

 「コミュニケーション」は,本来,「言語・文化・世代・社会常識などを含む知識・感性情報(背景情報)の異なる人同士でも,人間の有する情報受発信機能(音声・顔表情・身振り・手振りなど)を全感覚的(マルチモーダル)に駆使して,分かり合おうとする行為」といえる.

 これを,電気通信の世界で可能にするためには,異言語間通信のための音声・文字の認識・合成・翻訳技術や感覚感性表現のための実写映像・CG・音響・音楽等の活用技術などが重要であり,21世紀の新しいサービスとしての期待は大きい.

 20世紀における電気通信サービスである電信・電話・ファクシミリ・電子メールなどは,いずれも入力情報をそのまま形で(情報処理を施さずに)転送するいわば透明な通信路の提供であったため,その開発・評価は総じて電気・情報系の工学技術者が担当してきた.システムの評価においても,端末から端末までを系として扱い,その先の人間は含めなくても評価可能であったといえる.

 一方,21世紀における電気通信サービスにおいては,言語翻訳や顔表情の認識・合成,更にはより深い感覚感性情報の認知・生成など高度な情報処理機能が必要であり,その開発・評価には,情報通信技術者に加えて言語学・心理学・生理学・医学などの専門家並びに感性表現力に優れたアーティストの参画が必須となる.

 特に,この種のサービスの評価においては,ユーザ同士がお互いをどこまで理解し合ったかが重要であり,人間を含めた系全体を対象とする必要があると考えられる.

 論理的に未解明の人間を含めた議論は,得てして主観的・感覚的になりやすく,これまでのように客観的・論理的に進めるのは難しくなると考えられるが,これを避けるのではなくむしろ積極的に挑戦すれば,いろいろと興味深いテーマに遭遇できるであろう.差し向きは,本学会の関連研究会が音頭を取って,幾つかの学会にまたがる合同研究会を設置し,関心をお持ちの方々にブレーンストーミング的な議論を始めて頂くことなどが考えられる.将来的には,専門分野の異なる方々にも本学会の客員会員として活躍して頂けると,現会員にとっても刺激になり,新しい研究分野の開拓が期待できる.

 本学会の財務は,ここ数年の会員数の漸減等による収入減と電子化推進等による支出増で収支が悪化しつつあるが,幸い,諸先輩の御尽力により内部留保金を保有しており,これを学会の発展・活性化に活用する方針が確認されている.

 情報通信技術(IT)が注目を集めている現時点をとらえて,本学会の関連ソサイエティ・研究会が率先して取り組まれることを期待している.


IEICEホームページ
E-mail: webmaster@ieice.org