The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会の新しい流れ

副会長 石黒辰雄

 21世紀を迎え,情報社会,ネットワーク社会の姿が具体的に現れてきた.その基となっているのは,いうまでもなく,1990年代に起きた“ネットワーク革命”,インターネットや携帯電話の爆発的な普及であろう.一方,1990年代は日本の産業経済が停滞し,“失われた時代”ともいわれている.グローバルな動きの中で日本が担ってきた役割が大きく変り,産業界では変化に対応すべく構造改革が進められている.学会の活動も多くの学会がそれぞれに課題を抱えている.会員数の減少,論文誌発行の費用増加,事務局体制等いろいろな要因がある.本学会は着実な運営が行われてきており,幸い財政的にゆとりを持っている.しかし,新しい時代に対応した発展ができているかどうかは大いに議論されるべきところであろう.

 英文論文誌は約10年前に大幅な改訂が行われた.当時,日本からの最新情報の発信メディアを持つことは本学会の責務であること,アジアにおける国際的な活動基盤となること等が議論された.論文の質,情報の価値の高さを保つ方策として特集号の形を多くとる等編集上の工夫が行われてきた.最近は,海外から,特に韓国,台湾からの論文投稿が多くなり(通信では約半数),最新技術分野の特集号にも海外からのものが数件は含まれている.国際化が進んでいる一つの証であろう.一方,グローバルなIEEEがあり,アジア諸国の学会も英文論文誌の発刊を始めた.

 グローバルなネットワーク社会を迎え,情報はインターネットを通して世界に流通する.その技術開発の中心にいる本学会が学会活動へのネットワーク活用で先進的でなければおかしいであろう.今年から大会への申し込みをインターネットだけにしたが,ほぼ100%問題なく行われた.ネットワーク投稿も問題なさそうに思われる.しかし,論文のネットワーク出版は必然の方向であるが,いろいろな問題が絡むため,具体化はまだ余り進展していない.編集・出版コストの低減策としての効果が期待されるが,本質はアクセスが便利/自由になりサーキュレーションが拡大されることにある.情報流通の姿が大きく変る中で,レベルの維持向上は学会の存在意義及び会員にとって重要である.

 ソサイエティ制への移行は1990年代における最大の構造変革であった.学会の運営において,論文誌,研究会,大会など実質的活動は既に各ソサイエティで推進されている.更にソサイエティの自立性を高めるために,財政的な独立採算化の検討が進められてきており,最後の詰めの段階にきている.昨年の検討は学会の予算構造の理解に時間を費やされ,議論が直面する個別の経費に向けられがちであったが,ソサイエティの自立化には運営の構造を基本から見直すことが必要であるとの認識が高まっている.外部環境としても,他学会との協調が真剣に議論されるようになった.電気学会や,情報処理学会との協調関係を強める具体的な検討が始まっている.個々の活動はソサイエティ別に対応することになり,そのためにもソサイエティの真の自立化が必須になってきた.多くの関連学会を含む新しい枠組みをどのようにしていくのかこれからの大きな課題である.


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