The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


日本のITは遅れているのか

監事 石川 宏

 2000年7月に開催された,沖縄サミットはITサミットとも呼ばれ,情報技術(IT)が,21世紀の発展基盤として最重要課題であるとの共通認識に立ち,その整備を確認し合った.しかしながら,日本のITは,立ち遅れが目立ち,アジアの中でも先進国とはいえないとの指摘があった.確かに,ITの基盤となるインターネットの普及率を見ると,2000年当時,日本は対人口普及率17%で,米国49%,韓国32%に比べ,見劣りがした.その原因は,インターネットの伝送スピードが遅く,料金が高いからであるとされ,この「遅い,高い」は,特定の電気通信事業者の努力が足りないと,名指しで論じられた.

 その後,ITをテコに日本経済の再生を図りたいとのねらいから,ITに対する関心が大きな盛り上がりを見せ,「2005年までに世界最先端のIT国家となる」ことを目的とするe-Japan戦略が決定されたことは,記憶に新しい.2001年に入りADSLインターネットの登場により,日本はブロードバンドインターネットの本格的導入期に入った.多数のADSL事業者が参入し,熾烈な競争の結果,1年間に45%もの値下げが実施され,毎月30万加入が増加し続けている.2002年2月末時点で200万加入を超えるに至った.この伸び率は先の国々より大きく,ブロードバンドインターネットに関しては,日本と米国の立場は逆転し,恐らく1年後にはブロードバンド大国になることは間違いがない.この要因は,ADSL事業者が参入しやすい環境が整備されたことが大きい.すなわち,いわゆるドライカッパと呼ばれる,加入電話回線のアンバンドル化,ダークファイバと呼ばれる,NTTビル間あるいは事業者と結ぶための低廉な光ケーブルの提供,コロケーションと呼ばれるNTTビルの開放など,制度的な整備が整ったことが指摘できよう.また,これら,NTTの光ファイバのオープン化が,次のFTTHによる本格的ブロードバンドをもたらすであろう.

 このように,我が国のITについていえば,もはや少なくもブロードバンドインターネットを経済的に使えるという意味で,冒頭指摘されたことは解消している.しかしながら,これから,国民だれでもがインターネットを活用できるようにするためには,このほかの幾つかの課題を克服しなければならない.「情報技術の利用機会および活力の格差」いわゆるディジタルデバイドの問題である.平成13年度通信白書によれば,インターネットを利用しない理由を利用していない層に聞いたところ,インターネットがよく分からない,サービスやコンテンツに魅力を感じない,端末や機器の使い方が難しい,などの結果が得られている.特にここでは,パーソナルコンピュータ(パソコン)の操作性について,やや細かくなるが指摘しておきたい.

 インターネットの端末は現状ではパソコンであるが,家電,文具などと比べると,著しく使いにくい.例えば,電源を入れてもすぐ使えない,立ち上がるまで,2分以上も待たされる.また途中で電源を切ることが許されない.インターネットに接続する際「設定」という,素人には全く理解しがたい作業が必要である.キーボードのキートップと入力される文字と食い違う.例えば,Webページを指定するときよく使われる=cd=ab31(チルダ記号)を入力するとき,この刻印があるキートップではなく,^(アクサンシルコンフレックス記号)のキーをシフトして入力しなければならない.また更には,さしたる誤操作をしていないのに,手厳しいメッセージが出たり,何も応答しなくなったりする.これらは,新しくパソコンに触れるお年寄りがまず面食らう,またその理由を聞かれてもよほど詳しい人でも答えられないことで,パソコン教室が繁盛することになる.

 パソコンを使うこと自体が楽しい,あるいはそれを克服することが生きがいであればいざ知らず,インターネットを日用品のようにだれでも使いこなすことを目指すとすれば, 私たち開発に携わるものとして,単にキーボードアレルギーと片付けることなく,もう一段の努力が必要であろう.iモードの普及がその一つの答えであろう.Lモードの健闘に期待をしたい.また,ブロードバンドにふさわしい,端末操作性を含めたサービスの開拓を推進致したい.


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