The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


グローバル化の中の学会

副会長 齊藤忠夫

 人間社会の活動範囲が世界に広がり,多くの活動が国を越えて行われるようになり,グローバル化という言葉は我々の日常生活の中でも当然のこととなってきて久しい.

 グローバル化を可能にしたものは航空機の発達もさることながら,情報通信技術によって国境を越えて知識を共有できることになったことの効果は大きい.リアルタイムのテレビ会議は時差の克服が容易な地域の間では有効であるが,時差を気にしなくてもよいメールはグローバル化の重要な手法になっている.生産技術,金融技術のコンピュータによる管理も大きなインパクトを持つ.生産技術の進展によって生産力は転移され,途上国における高品質で安価な生産が可能になった.金融のネットワーク化は世界における各市場の差を減少している.

 我が国が先進国としていつまで豊かな社会として存続できるのかということに対する不安も高まっている.我が国が技術を柱とした貿易立国によらなければ,先進国としての地位を保てないことは古くから認識されている.しかし生産のグローバル化は,物の国際競争力を著しく低下させてしまったか,あるいはそのもたらす利益を減少させてしまった.

 求められるのはよりサービスに近い,社会システムの構築,ソリューションビジネスのような複雑な知識の貿易における競争力である.このようなサービス貿易においては,日本の産業が我が国で作った製品を輸出するだけではなく,相手国においてシステムあるいはサービスを相手国の人と協力して実現してゆかなければならない.

 このとき,必要なのは技術の共通理解である.我が国の電子技術について,相手国における広汎な理解と知識があるほど,こうした事業は容易になる.こうした理解を進めるためには大学と学会が協力した長期間にわたる努力が不可欠である.

 考えてみれば,欧州諸国やアメリカの大学は国の留学生政策を通し,留学生を迎え入れ,教育し,更に産業界が卒業生を受け入れ,帰国した後は学会,大学,政府,産業界が協力して,その国にとって貴重な財産である理解者の育成を支援している.この分野におけるアメリカの努力は我々にもなじみ深いものが少なくない.アメリカの大学と学会が大きな役割を果たしたからこそ,アメリカンスタンダードが広く世界に浸透し,アメリカの産業界を助けていると考えられる.

 我が国の貿易立国にとって,情報通信ソリューション技術に関する貿易はますます重要になってくる.これを支援するためにも我々の学会には海外における日本の技術の理解者に対して情報の提供を継続する努力が求められる.

 日本の留学生政策において,こうした継続的支援の戦略は政府においても大学においても従来決定的に欠けている.この努力は留学生を大学が受け入れるときから,その留学生が日本で学び,日本で継続教育を受け,本国に戻ってその社会で成功するまで一貫したものであることが望ましい.

 幸いにして本学会においても,国際化の努力が始められている.海外会員の増加策,海外地域代表者制度,海外の大学に対する図書の寄付などの努力が国際委員会の討議を通してこの1年間の間にも大きく進展している.海外地域代表者制度とは,各国に当学会を代表する方を指名し,その方を支援することによって各種の学術イベントを学会の名で企画して頂くことを想定している.こうしたイベントに現地の元留学生あるいは駐在日本人の会員の方々に参加して頂き,学会の国際的認知を高めて頂きたいと考えている.

 会員各位においてはこうした学会を中心とした国際協力が我が国の社会と産業界全体の健全な発展のために不可欠であることを御理解頂き,御支援をお願いする次第である.


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