The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


安定なインターネット接続,安定なパソコン

会長 羽鳥光俊

 情報通信の動向,状況の変化には目まぐるしいものがある.

 勤め先の国立情報学研究所がコンピュータ通信用に大学に提供していたパケット回線が2002年3月でなくなり,続いて10月にATM回線が波長多重回線に変り,バックボーン回線(有線)はインターネット回線となった.

 我が国の,公衆情報通信サービスの現状は,固定電話が移動電話へシフトし,また,ADSLや光,CATVモデムを含むインターネットアクセスサービスは堅調な伸びを示している.そして,情報通信は音声からデータ通信サービスへ移行しようとしている.

 地域通信市場では,ドミナントなNTTの地域会社に加え,新事業者のインターネットアクセス分野における急速・多様な参入が進み,多面的な全面競争状態となっている.

 インターネット接続料金は,ADSL及びダイヤルアップとも,既に米国と比較して低廉な料金が実現されている.光ファイバアクセスラインは,日本が最も低廉な価格で利用できる国である.

 料金値下げにより,NTTの旧一社ベースの売上高は年々減少しているとともに,経常利益は大幅な減益となっている.新事業者の経営にも苦しいものがある.

 ブロードバンド情報通信市場はいまだ揺籃期にあるが,コンテンツ,プラットホーム,コンテンツ配信(CDN),ネットワーク,端末等,一連の研究開発と,多様なビジネスモデルによる参入が開始している.

 事業戦略の立案,新サービスの提供,事業領域の拡大の研究開発が重要である.モバイル通信,グローバル通信,ユビキタス通信にも力を入れたい.光通信も大切である.

 ネットワークのオープン化,すなわち,NTTの地域通信網の新規事業者への開放は,多様な接続点での相互接続,ネットワークが利用する機能の解放,新たな料金体系の導入等が進められている.

 アンバンドル化,すなわち,NTTの電気通信設備の細かなアンバンドル単位による新事業者への提供も進ちょくしている.

 公正競争確保に向けた電気通信事業法の改正が,2001年11月に施行され,電気通信分野における一層の競争促進のため,市場支配力に着目した非対称規制(支配的でない事業者に対する規制の大幅緩和,支配的な事業者に対する極力緩和),市場支配力の濫用の防止(反競争的行為の類型の明確化),電気通信事業紛争処理委員会の設置がポイントである.

 米国における最近の情報通信振興策として,米国型の競争政策の失敗の反省(ISP等の過当な価格競争によるDSL等の新事業者の経営破綻の反省,長距離事業者のワールドコム,グローバルクロッシング等の過剰投資に伴う粉飾決算による経営破綻の反省),連邦議会におけるブロードバンドサービス振興のためのベル系地域電話会社への規制緩和法案の審議,FCCパウエル委員長の徹底した規制緩和を推進する意向の示唆(ベル系地域電話会社の長距離進出規制の緩和),FCCのブロードバンド普及へ向けた地域通信の規制緩和の検討(アンバンドル規制の見直し,ブロードバンドサービスの規制緩和),連邦控訴裁のFCCに対するアンバンドル命令とラインシェアリング命令の見直しを求める判決等が挙げられる.

 筆者は1,000倍の高速広帯域サービスを3倍(log10 1,000=3)の料金で提供できると考えている.自宅から勤務先等,エンドツーエンドで,できればピアツーピアで,高速広帯域通信を実現したい.そのとき,ブロードバンド情報通信の花が咲き,実が稔ることとなろう.

 安定なインターネット接続(パソコンを外国に持って行ったとき,容易につながらない),安定なパソコン(フリーズしないOS.オープンの良さとクローズドの良さを併せ持ったセミオープンとすることができないか)に不満足があることがITバブル崩壊の一因と考える.安定な,信頼性の高い,セキュアなインターネット情報通信の実現が,ITバブル崩壊からの脱出,日本経済を強力にけん引する,国際競争力のある,便利なIT情報通信の新たな発展をもたらすこととなろう.


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