The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


グローバルプラットホーム

監事 木村達也

 海外との交流は学術活動の重要な要素である.知識や技術を囲い込むより,広く海外も含めた交流・連携を通じて相互の発展を図る重要性は広く認識されている.一昨年9月以来「グローバル化」という言葉を言い出しにくい雰囲気が出てきたものの,知の創造・交流・普及を旨とする学会として,会員にグローバルな活動の舞台や情報交流の仕組みを十分提供しているかどうかは重要な評価基準である.こうした観点から,海外会員・論文誌・国際会議の三つに焦点を絞って,現況と今後の方向について私見を述べてみたい.

 平成11年5月の通常総会で定款・規則の一部改正が認められ,英文誌のみの購読を前提とする海外会員制度と,購買力平価の違いで入会困難な国や地域の会員を支援する制度が導入された.その後,勧誘キャンペーンも実を結んでアジア地域を中心に入会者が急増し,1月末時点の海外会員数は1,500名近くに達している.当学会の日ごろの活動が高く評価されたものとして御同慶の至りである.この会員数は東北支部や九州支部と肩を並べる数であり今後も増加が期待されるので,学会が提供する種々のサービスに海外会員の視点が大切になる.既に定款・規則の英文化,英文Online Journalの公開等が実施されており,アジアの一部地域に代表者を設けて現地活動を支援する試みも開始された.しかし,学会運営状況やサービス情報を伝える電子メールの発信や英文ホームページの充実,英文ニュースの発行,学会運営への海外会員の参加など,今後に向けた課題も多い.

 本学会が発行している英文論文誌は会員の学術情報発信・流通媒体として重要な意義を持っている.しかしその評価の目安となる掲載論文の被引用頻度,いわゆるimpact factorについては,分冊により多少差はあるものの総じて更に努力を要する状況にあると言わざるを得ない.もとより論文引用は単に引用数の問題ではなく,先人の業績をどう評価し著者の貢献をどう主張するかという科学技術観に根ざすものであり,著者の研究姿勢を示すものである.また,impact factorは短期的評価にすぎないとの批判もある.しかしimpact factorが論文誌の注目度を定量的に示す有力な統計的尺度であることは否めない.鶏と卵の関係に似ているが,引用に耐える質の高い論文が多数掲載される論文誌に育てる粘り強い取組みが求められる.各ソサイエティにおいて現況認識が進み,英文誌向上に向けた動きが始まったところである.一つの提案として,情報が国内に閉じてしまう和文論文誌を縮小または廃止し,学会リソースを英文誌の質的向上に集中してはいかがであろうか.昨今国際会議における若い科学技術者の英語スピーチ能力向上は目覚ましい.論文執筆においても,英文が必須となれば程なく多くの研究者が余り抵抗なく執筆できるようになるに違いない.多少過激な意見と承知しているが,学会として目指す方向を鮮明に示すことも重要である.和文論文誌に代る日本語による論文発表・討論の機会は研究会や技術研究報告を充実すれば確保できるし,それによって研究専門委員会の位置付けも明確になるであろう.

 近年,手軽なインターネット,低廉な航空運賃,至便な会議施設等の社会基盤が整備され,国際的シンポジウムや展示会等が比較的容易に開催できるようになった.これまでも当学会は国際的スケールの学術集会を数多く主催ないし共催して実績を上げてきたが,上記のような恵まれた条件を生かして国際会議の面からも科学技術の進歩に主体的に貢献する環境を整備することが重要である.会員・研究専門委員会・ソサイエティ・支部等のニーズ,当学会ないしソサイエティのリーダシップ,アジアや世界の活動センターとなってゆくべき会議のプロモーション,開催マニュアルやノウハウ支援の整備等の観点から現状を見直してみることも有益であろう.それと同時に海外会員に対する総合大会・ソサイエティ大会のグローバル化も忘れてはなるまい.

 広く海外に開かれた学会として質の高いグローバルプラットホームを提供することは,海外会員のみならず国内会員にとっても価値の高いサービスであり,本学会が目指すべき重要な方向であると考える.


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