The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


テクノロジーバリューチェーンをつなごう

監 事 持田侑宏

 産業界は社会や顧客を意識した実用化研究にシフトしており,加速する技術進歩に対応するためには,大学や国立研究所などとの基礎研究面での連携が不可欠になっている.その中で,電子情報通信分野では,ビジネスはもちろん研究開発もグローバル化が進み,海外大学や海外研究機関への委託研究金額が国内への金額を上回っているのが現状である.ここでは委託金額が大きく,達成目標成果の明確な契約ベースのプロジェクトが多く,その推進のために企業は海外に研究所を設け,研究員を送り込んでいる.

 連携パートナーとしての海外大学や研究所を見ると,組織を挙げた連携推進のためのマーケティング活動が見られる.例えば,英国大使館では日本の産業界に英国の大学を紹介する活動を強力に進めており,米国や中国では大学トップが産業界との協力ルートの開拓に努めており,その中で教育面での成果も研究受託のPRに使われている.

 また,連携のインセンティブが制度に作り込まれている事例も多い.例えば,ドイツの独立法人研究所では産業界からの委託金額が増えると国からの基金も増える仕組みがあり,欧州でマッチングファンドが海外企業にも広く適用される例が多いなどである.

 これらの背景には,研究プロセスも一つのビジネスプロセスととらえて,各段階で産み出される価値を次の段階に効率良くつなぐこと,すなわちテクノロジーバリューチェーンをつなぐことに各国とも注力し,かつ競争していることが強く感じられる.

 教育―基礎研究―応用研究―開発・製造―社会・ユーザというテクノロジーバリューチェーンは日本で十分つながっているだろうか.企業ではこの点を見直して,社内の組織を変革している.ここでは,成果の出口はどこにつながるか,次段階のプレーヤー(顧客)はだれかという点を明確にして研究開発活動を立案し評価することが大切である.

 日本の大学や国立研究所がグローバルなCOEとなるためには,国内企業との交流・連携を強化することに加えて,海外の大学・研究機関との交流・連携はもちろん,海外の企業とも太い交流・連携を打ち立てることが大切であると考える.このことは日本の産業にとって一層国際的競争を厳しくする面もあるが,強いCOEを持つことを必要と考え,期待している.また,このような努力によって,競争力に富む多様な人材も育つのではないかと考えている.いろいろな立場の接点である電子情報通信学会の大きな役割がここにある.


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