The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


急がず休まず…

会計理事 間瀬憲一

 新潟下町(しもまち)と呼ばれる新潟市中心部の一帯は寺町ともいわれ多くの寺社群が西堀通り沿いに建ち並んでいます.その昔は堀割で結ばれ情緒あふれる町だったことでしょう.数年前,宗現寺というお寺の門前を通りかかったとき,次の言葉が掲げられているのに気付きました.「急がず休まず夢を追え」.この言葉はそのお寺の住職さんが御自分で考えられ,張り出されたものだそうです.私の信条に正にぴったりの言葉であったので,深く感動し,それ以来,私の座右の銘となりました.

 その後,「星のように急がず,しかし,休まず」という言葉がゲーテの詩の一節にあり(「ゲーテ格言集」,高橋健二(編訳),新潮文庫),「急がず休まず」は格言,処世術,座右の銘として多くの人々に愛用されていることを知りました.また,急がず休まずの後ろに「…一歩一歩」,「…あきらめず」,「…マイペース」などといろいろな言葉を続けて活用されているようです.古今東西普遍の名言だと思います.それにしても,「…夢を追え」と続けたのはかなりユニークで力強く明快なメッセージではないでしょうか.

 情報通信技術の世界はいうまでもなく,日進月歩であり研究者,技術者,そして経営者も技術の最新動向を把握し日々の研究開発に生かすために不断の努力が欠かせません.そのときの心得をこの言葉は端的に表していると思います.研究室の学生にも日ごろからこの名言を言い聞かせている次第です.

 さて学会の財務状況建て直しが今重要な課題になっています.近年収支バランス悪化の傾向が続いていましたが,16年度は実質的には赤字決算となりました.収入面では会員,維持員などの減少による会費収入の低下,支出面では英文論文誌事業が構造的な赤字体質にあり,財政悪化の主要因になっています.このため財務状況のシミュレーションに基づき,論文誌の収支バランス改善効果の高い「和英オンラインジャーナルの有料電子化を平成18年度から実施する」ことが理事会決定されました.オンラインジャーナル化は長年の懸案事項で会員離れを助長しないかなどの懸念もありましたが,幸いにして学会の総資産にまだ余裕がある今こそこのような大きな改革を実行し,問題が出てくれば改善を図りつつより良いシステムに仕上げていこうという基本方針に基づくものです.しかし,オンラインジャーナル化を実現しても会員の減少が続けば,いずれ財政が破たんすることは避けられず,会員減少に歯止めをかける取組みが極めて重要になっております.これには特効薬はないと思いますが,「急がず休まず」新しい知恵を出し実践していくことが必要と思います.

 私たちが日々の仕事に取り組み研究者,技術者としても人間としても成長していくために,信条や座右の銘は重要なものです.また,企業や大学のような組織とは異なる学会という存在も研究者,技術者としてのモチベーションを維持し高めるために大きな役割を果たしているように思います.仕事が忙しくしばらく学会からは遠ざかってしまった第一線の技術者やマネージャーの方々には,是非学会への関心をもう一度呼び戻し,また,会員諸氏には,現場で働く若い技術者や学生に学会への関心を高めるよう,機会あるごとに御指導頂きたく存じます.もちろんその前提として学会自体の魅力を高めるべく引き続き種々の取組みを強化することが肝要です.「急がず休まず夢を追う」研究者,技術者にとって学会が一層魅力ある場,よりどころになり,併せて学会が経営的にも安定することを願っているこのごろです.


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