The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


改革と学会

編集理事 酒井善則

 改革という言葉が近年のキーワードになっている.身近でも行政改革,大学改革,学会改革,改革という言葉を目にしない日は少ない.改革には通常ポジティブなイメージがある.すべての組織にとって外部環境は変化するし,既存の制度は必然的に疲弊するため改革は常に必要であるが,やはり改革は手段であって目的ではない.目的と評価を分かりやすくすることが改革にとって必要であろう.

 改革には所属する組織体を発展させるための改革と,将来の危機を避けるための改革の2面がある.更には組織に緊張感を与えるための改革もあるかもしれない.国の指導者は改革の理由を国民に説明する.スローガンとしての富国強兵,所得倍増等には,少なくとも強兵を除くと現在でも多くの国民が納得するポジティブなイメージがある.しかし最近の改革は困難がつきまとう.少子高齢化,アジア諸国の台頭による我が国産業競争力の低下,エネルギー問題などの外部情勢のもと,将来的にある程度避けられない危機への対処が動機となっており,国民に夢のある言葉で説明しにくい.年金改革といっても,少なくとも当面喜ぶ人はだれもいなく,将来の危機回避しか理由はない.このようなマイナスサムの改革を実行するためには,無私で感情に流されず,事に冷静に対処し得る資質を持つリーダの存在が必要であろう.

 旧国立大学改革の外部情勢は明確である.具体的には,@少子化による大学生の減少,A文部科学省の予算の削減,更には目的かもしれないが,B産業界からの大学改革への強い要請,がある.Bの具体的評価は難しい.産業界指導者の多くの方は大学時代に知識を学んだだけではなく,むしろ人間力の強化に重点を置いた方が多いように思われる.単に,カリキュラムを厳しくする,産業に直接役立つ研究をする,ソフトウェア技術者養成をする,ことだけが産業界に貢献することではない.一方最近では大学ランキングが大学評価の指標として注目されているが,その指標も十分ではないだろう.すべての大学にとって評価指標が同一である必要はない.まずは教育,研究面での大学ごとの目標を明確にして,産業界に問うことが必要である.ただ@,Aは事実として受け止め,大学を強化するための改革を進めるほかはない.大学改革の難しさは,改革に労力がかかる割には本当の評価が難しいことである.時には改革そのもの,あるいはその結果としての大学ランキングがマスコミの話題となる.組織に緊張感を与えることは常に必要であるが,ランキング評価だけを指標とする,あるいは改革そのものを目的とすることは問題である.労力と本当の効果をクールに見た改革が必要となろう.

 学会改革に対する外部情勢は,@少子化による会員母体の減少,Aインパクトファクター等の新しい論文誌評価指標の出現,Bディジタル化の出版収入への影響,である.学会の最大の存在意義は,産業界・大学の発表・情報交換の場,研究評価機関としての役割である.論文誌評価指標が低下すると,急速に学会の地位は低下する.論文誌の評価指標を高めながら経営基盤を安定させ,同時に会員が活動しやすくすることが改革の目的となる.海外会員の獲得は地位向上には有効であるが,短期的には経営基盤の安定のために有効とは限らない.出版収入の低下を恐れてディジタル化を遅らすと,学会の地位自体が低下する.幻想を抱かず現実を直視するとともに,目的と手段を混同せずに改革を行っていくべきであろう.


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