【 ネットワークの進化とIP技術 】

青山 友紀


3.インターネットの展望とIP技術の課題

 インターネットはネットワークレイヤにIP(Internet Protocol)を利用するコネクションレス型パケット通信であるが、このIPパケットを利用するネットワークはインターネットばかりではなく、移動通信網や Intra−network,Extra-network など様々な形態がある。

本特集の通信インフラとしてのIP技術というタイトル は、IPパケットが将来の様々な通信ネットワーク共通のベースとして利用されることを念頭に置いていると考えられる。

しかし、将来のトラヒックの大部分がインターネットで提供されると想定されるので、ここでは主としてインターネットの技術的発展を考えることにする。

1998年7月にジュネーブで行われたINET'98の Keynote Speech で TCP/IPプロトコルの開発者として知 られるVinton G.Cerf は次のようにインターネットの将来を展望した。

(a)Everything on IP
(b)IP on Everything
(c)Inter−planetary Internet

(a)の意味するところは、現在インターネットはコンピュータ間のデー夕を転送するネットワークであるが、将来は音声や映像をはじめとしてすべてのメディアがインターネットでサポートされるであろう、というものである。
これを実現するためのネットワーキング技術をここでは「第2世代インターネット」技術と分類してみる。

また、(b)は、現在のインターネットはパソコンを接続するものであるが、将来は情報家電から白物家電、自動車や様々なウェアラブル機器、屋内や屋外に設置されるセンサ、などなどあらゆる電気機器にIP転送機能が具備されインターネットに接続される、という意味である。
これを実現する技術をここでは「第3世代インターネッ ト」技術と分類する。

(c)は宇宙開発でもインターネッ トが使用され、将来は太陽系全体にインターネットが張 り巡らされるであろう、という壮大な夢であるが、これはひとまずおいておこう、上記の第2世代、第3世代、という分類は厳密性に欠けるし、必ずしも第2世代が終ってから第3世代がくる、というわけではないが、次世代インターネットの開発を大まかにつかむためには役に立つものである。



3.1 第2世代インターネット技術

 Everything on IP を実現するためには、コンピュータ が扱うデータばかりではなく、電話網が扱っている音声や、放送が扱っているテレビ映像などもインターネットがサポートできる必要がある。

そのための技術としてここでは、(a)QoS(Quality of Service)制御、(b)マ ルチキャスト機能、(c)リンクとノードの容量拡大、について取り上げる。


(a)インターネットのQoS制御

 インターネットがユーザに提供するサービスの品質(QoS)確保の方法は電話ネットワークと基本的に異なっている。
インターネットが21世紀の情報インフラになるためにはそれがサポートするすべてのメディアに対するQoSの問題を解決しなければならない。
ここでは二つの問題について考えよう。

 電話ネットワークでは電話機は音量や音質を除いてサービスの品質には関与せず、それを規定するのはネッ トワークである。
これと正反対にインターネットではネットワーク(IPプロトコル)は品質保証に関与せず、それを規定するのはエンドホスト(TCPプロトコル) である。
すなわち、インターネットは送信ホストから出力するデータを受信ホストが正しく受信するためにトラ ンスポートプロトコルとしてTCP(Transmission Con− troI Protocol)を用いている。


図2 IPネットワークがサポートすべきトラヒック


TCPは周知のようにエンドツーエンド、すなわち送信ホストと受信ホストのみで処理され、転送途中のルータは関与しない。
このような TCPベースのプロトコルを用いたとき、ネットワーク のふくそうを回避し良好な品質を確保する手法として、 Jacobsonの“Congestion Avoidance and Control(2)の手法” が採用された。

この手法はふくそう制御のSlow−Start等すべてのエンドホストの協調動作を前提としている。
図2は第2世代インターネットがこのようなTCPで品質を保証する「TCPトラヒック」以外に、音声や映像のようなリアルタイム転送を必要とする「ストリームト ラヒック」、テレビ番組や映画を一つのコンテンツとして一括高速転送するような「パーストトラヒック」をサポートしなければならないことを示している。

各トラ ヒックに別々の帯域を割り当てることも当然考えられるが、それはロジカルネットワークを別網として設定することになり、ルーチングやオペレーションを共用し、各トラヒックの変動に柔軟に対応することはできない。

 一方、これらを同じロジカルネットワークで扱う場合、各トラヒックにどのようにネットワークリソースを割り当てればよいのであろうか。

TCPトラヒック以外に対してもふくそう時にすべてのエンドホストの協調を前提 としたふくそう制御を行う“TCP-friendlyパラダイム” (3)が提案された。
本モデルではTCP以外のトラヒック もTCPと同様の原則でふくそうを制御するが、本手法ではパケットロス率の劣化によって転送スループットが著しく低下し、ストリームトラヒックには適しない。

これに対して、Legoutらは最近“Fair Scheduler(FS)パラダイム”と呼ぶ新しいふくそう制御モデルを提唱している(4)。

本モデルは、ふくそうに対して互いに協調せず、 各々は利己的に自分のトラヒックに都合良いように振る舞うエンドホストを前提としている。
FSパラダイムは後述する“Fair Scheduler”をすべてのルータに具備することによって実現する。
これによって、帯域・遅延・パケットロスの三つのQoSパラメータのトレードオフを行う。

 このように図2に示した課題に対して、TCP-friendly パラダイムやFSパラダイムが提案されているが、これらが将来のインターネットトラヒックのふくそうにどのように適合するかはまだ未知数であり、より良いパラダイムの考案も含めて今後の重要な課題である。

 QoSに関する第2の課題は、ルータが関与するネットワークレイヤ、すなわちIPプロトコルにおける問題で ある。
インターネットはよく知られているようにネットワークレイヤではQoSに関してBest-Effort、すなわちネットワークレイヤではQoS(遅延、RTT、パケット ロス率など)を保証しない。
上述のようにこれが電話ネッ トワークとの基本的な相違であるが、第2世代イ ンターネットではこれでよいのであろうか。
この問題に対して現在ではネットワークでなんらかのQoSを保証する二つの手法、“Integrated Services (Intserv)”(5)と “Differentiated Services(Diffserv)”(6)  が提案され、IETFで標準化が行われている。

Intservにおけるルータはフロー(ソースアド レス、目的地アドレス、ソースポート番号、目的地ポート番号がすべて同じパケットの流れ)別にスケジューリング(ルータにおいてパケットを処理する順番。 現在のインターネットではFIFO: First−In First-Outが用いられている)を行う。

代表的なスケジューラとしてWFQ(Weighted Fair Queuing)(7)やDRR(Deficit Round Robin)(8) などがあるが、ここでは説明を省略する。
また IntservをセットするためにはRSVP(Resource Reservation Protocol)(9)というシグナリングをやりとりしてルート上の帯域を確保する必要がある。

すなわちIntservは電話綱において呼が発生すると交換機が回線の空きを調べ、空きがあればそこを占有することに よって品質が保証されるコネクション型ネットワークに近い手法である。

Intservはルータがフローごとのステート管理やWFQなどのスケジューリング処理と複雑なシグナリングも必要であること、からネットワーク規模が大きくなるにつれてルータの制御負担が増大し、そのためスケーラビリティに難点があるといわれている。

 一方、Diffservはフロー別制御を行わない方式であり、大規模ネットワークに対するスケーラビリティの高い手法として実用化間近である。
Diffservではパケッ トヘッダの中の6bitでDSCP(Diffserv Code Point)を指定する。
同一のDSCPを有するパケット(これを Behavior Aggregate(BA)とよぶ)はルータにおいてすべて同一の扱いを受ける(これをPer-Hop-Behavior (PHB)とよぶ)。

現在はExpedited Forwarding(EF)、 Assured Forwarding(AF)、Class Selector(CS)、Default (Best Effort)の4種のPHBが規定されている。

図3にDiffservルータの基本構成を示す。

EFは入力レートより大きな出力レートを保証する最も高品質なクラスであり、遅延、ジッタ、パケットロス率がいずれも低く、ピークレートが保証されるので、「Virtual Leased Line」と見ることができ、TV映像などのストリームメディアに適するクラスと考えられる。


図3 Diffservルータの基本構成



このようにフロー別制御が不要でIntservに比べてルータヘの機能追加は少なく、RSVPのようなシグナリングも不要であり、かつISP (Internet Service Provider)相互でのSLA(Service Level Agreement)の締結によって複数ISPにまたがってDiffservサービスが提供できるので、インターネットにおける最初のQoS制御方式として注目されている。
しかし、DiffservはIntservのようにエンドツーエンドで厳密にネットワークでのQoSを保証することはできない。

最近、EFクラスにおいて異なるフローのパケットの同期到着により遅延が増加するパケットが発生し、各ホップごとにこれが累積してパースト化する現象が確率的に発生することが明らかにされた(10)。

このようなパーストを許容するにはルータに極めて長いバッファが必要 となる。
このパースト疑集効果を防止する手法として、 ルータの入力ポートの情報によってスケジューリングする「Per-ingress Scheduling」手法(11)が提案されている。
また、IntservとDiffservの組合せによる「Intserv over Diffserv」方式(12)が提案されている。

 以上のようにインターネットのネットワークレイヤで複数のQoSサービスを提供することはまだ完全には解決されていない課題であり、標準化を含めた実用化の努力が活発に行われているところである。


(b)マルチキャスト機能


 あるグループのユーザに同一の情報を配信するマルチキャスト機能は今後のE-Commerceにおけるプッシュ型 情報配信サービスの提供に欠かせない機能である。
このマルチキャスト機能は電話ネットワークにおいては会議電話やテレビ会議で限定されたユーザ数(たがだか数十) でしか実現されていないし、使用するにはオペレータに予約をして回線の設定を依頼しなければならない。

一方、放送はすべてのユーザに同一の番組を送るブロードキャストである。
したがって、インターネットで特定のユーザにオペレータを介さずに情報を配信するマルチキャス ト機能が実現できれば既存ネットワークにはない新しい機能となる。

現在インターネットでマルチキャストを行うMBone(13)という実験的マルチキャストシステムがイベント中継などに利用されているが、極めて限定された利用しかできず、最終解には程遠い。

 マルチキャストの原理は送信者がパケットをマルチキャストアドレスに向けて一つ発信すると経路上の各ルータが必要に応じてそのパケットのコピーを作成し、マルチキャストグループに属するすべての受信者にそのコピーを届けることである。
インターネット上ではマルチキャストパケットはUDPデータグラムとして送信されるため、パケットの到着順序や遅延、パケットロス率などは保証されない。

WWWキャッシュサーバヘのデータ同時配信やソフトウェア製品の配信サービスなどではTCPのように何らかの信頼性保証のメカニズムが必要となる。
このようなマルチキャストを「リライアブルマルチキャスト」という。

一方、テレビ会議のようにリアルタイムな映像信号を配信する場合にはある程度のパケットロスを許容してもよいので、RTP(Realtime Transport Protocol)(14)のようなプロトコルを適用でき る。
これを「リアルタイムマルチキャスト」と呼ぶ。

しかし、この場合はマルチキャストグループのすべての受信者が同一のレートで受信する必要があるが、これは現実的でない。
リライアブルマルチキャストに対してはSRM(Scalable Reliable Multicast)(15)、RMTP(Reliable Multicast Transport Protocol)(16)、MFTP(Multicast File Trans− fer Protocol)(17)など多くのプロトコルが提案されている。

また、ルータにキャッシュ機能を持たせるActive Reliable Multicast(18)や適応型リライアブルマルチキャストのRMACプロトコル(19)なども提案されている。

 一方、リアルタイムマルチキャストでは、例えば映像信号を階層符号化し、十分帯域のある受信者はすべての 階層のパケットを受信し、帯域が十分でないか、ふくそうが生じた場合は順次低位の階層のパケットのみ受信す る「Layered Multicast」(20)(21)の研究が活発に行われている。
これらの応用に対応した映像の階層符号化技術の研究も活発になってきている。

マルチキャストは配信すべきコンテンツやサービス形態、配信数などによってその性能が大きく異なり、すべてに万能な方法は見いだされていない。
現実的にはアプリケーションによって幾つかのプロトコルを使い分ける ことになるであろうが、ルータにどのような機能を追加すればよいか、今後一層の研究が必要である。



(c)リンクとノードの容量拡大

 Everything on IP が実現されると、ネットワークがサポートすべきトラヒック量は格段に増加すると想定される。

現在、既に米国ではインターネットトラヒックはLSI技術進歩を示す「Mooreの法則」をはるかに上回った速度で拡大しているといわれている。
それに伴って米国の通信会社はバックボーンネットワークのリンクの容量を急速に拡大する必要に迫られており、それに応える技術としてWDM(Wavelength Division Multiplex)が登場した。

Mooreの法則を超える容量拡大に対応する には電子デバイス技術では早晩困難となり、フォトニック技術に頼るしかない。
 WDMは複数波長を用いて光領域で多重化・多重分離 を行う方式であり、光領域での多重化によって電子デバイスでは実現不可能なTbit/sを超える超高速多重を可能にした。

これを更に発展させて、多重化以外のクロス コネクト、ルーチング、スイッチングなどの転送機能を光領域で行うことによって電子デバイスの速度ネックを突破するネットワークを「フォトニックネットワーク (PN)」と呼ぶ。
PNについては文献(22)を参照されたい。


図4 フォトニックネットワークの展開



 図4はフォトニックネットワークの展開を示したものである。
同図のステップ4〜6はインターネットのバックボーンにフォトニックネットワークを適用する場合の技術課題を表している。
IP over WDMは一つの波長をすべてインターネットトラヒックで占有する段階では、ルータ出力とWDMリンクとのインタフェースは電話網で用いられるSDH/SONETやATMのフレームを用いず、IPパケットを波長に乗せるのにより適したインタフェースの規定を目指すものである。

その手法として、SDH/SONETフレームをより簡単化したDigital Wrap− per などのフレームがITU−TやOIF(Optical Internet− working Forum)で議論されている(23)。

 リンクの容量はWDM技術の進歩に伴って増大していくことは予測できるが、それに接続されるルータの容量も同等に拡大していく必要がある。

Tbit/sを超えるスループットを有するテラビットルータの研究開発は活発に行われており、カタログ上そのような特性を有するルータも発表されているが、実際にインターネットに接続してその性能が発揮できるか疑問視する見方もある。

いずれにせよ電子デバイスで構成されたルータの性能向上は今後も続くであろう。
これに対してフォトニック技術を利用してルーチングを行う「フォトニックルータ」 についても研究が行われている。

ここで注意をすべきことは、フォトニックルータは電子的ルータと同様な機能を光で置き扱えるものではない、ということである。
光デバイスでは順序回路の構成に必要な光メモリ回路がま だ実現されていない。
したがって、ルータに必要なバッ ファやアドレステーブルによるあて先検索など、順序回路で構成された機能ブロックは当面実現の可能性はない。

現在、フォトニックルータが目指すのは、ある方面へのパケットフローを指定の波長にマッピングし、波長スイッチによって目的のフォトニックルータまで光領域のまま転送する波長ルータ方式、あるいは、ある方面へのパケットフローに光領域でラベルを付加し、その光ラベルによってルーチングするフォトニックラベルルータ方式である。

波長ルータは光XCスイッチで構成される。
一方、ラベルルータの光ラベルは波長をラベルに用いる方式や光符号を用いる方式が検討されている。
光波長ラベルでルーチングする場合は識別可能なアドレス数が問題になるが、WDMの波長数は2005年ごろには1,000波が可能といわれている。

光符号は直交する符号を光の振幅または位相の時間波形で実現する(24)。
ラベルのアドレスを識別するには、符号数だけ用意された光符号と受信光ラベルの相関をとり、出力が判定レベルを超えるものがそのラベルの符号である。
直交符号の性質から他の出力はノイズレベルとなる。

このような光符号器、相関器がPLC(Planar Lightwave Circuit)で試作されている(25)。
このようなフォトニックラベルルータは目的地のフォトニックルータまで光領域でカットスルーする光領域MPLS(Multi ProtocoI Label Switch)と考えることもできよう。

DARPA(Defense Advanced Re− search Project Agency)資料(26)によればインターネットの平均ホップ数は以前の10ホップから現在16ホップと増大傾向にあり、これによる遅延増加、ふくそう遭遇率の上昇、セキュリティの低下が問題となっている。

フォ トニックルータによるバックボーンでの光領域のカットスルーはホップ数増加の問題に解を与える可能性がある。
フォトニックルータは電子的ルータと組み合わせることによってトータルとしてTbit/sを大きく上回る超高速ルータを実現する技術として有望である。

 図4のPNの進展に示す7〜9はフォトニックネットワークによるアクセス系に関するものであり、アクセスボトルネックの解消はEverything on IPを実現するために極めて重要な技術であるが、ここでは紙数の関係で省略し、別な機会に譲りたい。



(d)若干の考察:Interdependence Network

 第2世代インターネット技術として重要な次世代プロ トコル「IPv6」、インターネットにモビリティ機能を付与する「Mobile IP」については本特集の別の記事に詳 しいのでここでは触れない。

ここではインターネットのコンセプトと今後の動向について若干触れてみたい。
最近話題になった「Stupid Network」(27)のIsenbergは、ネットワークにインテリジェンスを付与することはユーザの発展の自由度を奪うものであり、電話網のインテリジェントネットワークは誤った方向であると批判している。

彼によればネットワークは愚直にビットを運ぶだけが理想であり、必要な機能はエンドホストに搭載されるべき ものである。
こうすればユーザは必要なときに自由にエンドホストに機能を追加して所望のアプリケーションが実現できる。
そして、Stupid Networkの最も良いモデルがインターネットである、としている。

当初のインター ネットはそのようなコンセプトで実現されており(28)、ルータはIP転送だけを扱い、それ以上の機能はエンドホストに実装した。
これによってルータに手を入れることなくユーザは次々に新しいアプリケーションソフトをエンドホストに追加して利用できた。

 しかるに、最近のインターネットの動向や、上記の第2世代インターネット技術の方向は、ルータに機能を付加しネットワークにインテリジェンスを付与する(これ を「ネットワークサポート」と呼ぶことがある)方向にあるように見える。

例えば、FSバラダイムやDiffserv のスケジユーラ、Queue Management(バッファからパケットがあふれそうになったときの処理)、マルチキャストでのキャッシング、Active Network(29)、などすべてルータに機能を付与する方向にある。
また、「ポリシーベースネットワーク」に関する議論や標準化活動が活発である。

ポリシーベースネットワークはISPなどのネットワーク管理者が望む運用規則に従い自動的に動作するネットワークをいい、ポリシールールの集合からなるポ リシーにより動作が規定されるエレメントから構成されるネットワークである。

ポリシーベースネットワークはインターネットのOAM(Operation, Administration and Maintenance)機能に関する領域であるが、ルータ などのネットワークエレメントがポリシーサーバと様々なインタラクションを行い、コントロールも受ける。
これは電話網のOAMシステムとよく似ているといえる。
IPネットワークはStupid Networkとしてスタートしたが、あらゆるメディアをサポートしたり、ネットワークにQoS制御機能やキャッシング機能を持たせたり、ルータを遠隔からダウンロードしたソフトで動作させたり、ネットワーク管理者のOAMロードを軽減し、システムの信頼性を向上させたりするためにネットワークに様々な機能追加が必要となっている。

情報インフラとしての役割を担うネットワークはエンドホストとネットワークの機能分担がどちらかにすべてがあるall or nothingではなく、あるバランスのとれた分担を有する「Inter− dependence Network」になると思われる。
もちろんルータに機能を追加することはその機能に関する性能が向上することは当然であるが、それによって失われるものを冷静に評価し、ルータヘの安易なインテリジェンスの付与によってトランスペアレンシが失われることは慎まねばならない。
特にエンドユーザの利用の自由度を奪うような機能追加には十分な検討が必要であることはいうまでもない。


3.2 第3世代インターネット技術

 ここではIP on Everythingについて考えよう。

インターネットに接続される機器は高機能なサーバからキーボードモニタを持つPC、携帯電話、リモコンで動くテ レビやオーディオ機器、各種ゲーム機器、ディジタルカ メラ、高速で動くカーナビ、冷蔵庫などの家庭電器製品、屋内外の単機能センサや監視機器など多岐にわたる。

接続される端末数は人口の一けたも二けたも大きくなろう。
それらを接続する媒体も電話線、同軸、電力線、ファイバ、無線、赤外線、衛星等々様々である。

このような時代のネットワークは何を考えねばならないであろう か。

ユーザサイドからは、

@今いるところでどういうサービスが受けられるのか、どういう機器が利用可能なのか知りたい (Service−aware機能)。

A決められたアドレスを使わなくても、もっと自由に希望のところに情報を転送したり、Webサイトにアクセスしたり、所望するサービスを受けたい (Naming機能)。

B自分が今いる地理的位置をベースにしたサービス を受けたい(Location−aware機能)。

Cネットワークを利用する状況に応じて自動的に最も高いグレードのサービスを受けたい。

Dネットワークに接続されている多数の機器の部分機能を自由に組み合わせて仮想的な機器をネットワーク上に創出し、それを利用してサービスを受けたい(Virtual Appliance機能)。

E多種多様な端末をネットワークに接続するとき、分厚いマニュアルを読まなくてもつないだらすぐ使いたい(Plug and Play 機能)。

F自分が管轄するネットワークに接続している機器のコントロールを代行してくれるエージェントが欲 しい(Network Agent 機能)。

G外部からネットワークを経由して侵入されないように鍵をかけておきたい(Network Security 機能)。

など、ネットワークに接続されている多種多様な機器をオフィスや家庭ではもちろん、どこにいても最大限自由に活用したいと思うであろう。
しかも専門的知識がなくても簡単に使いたいと思うであろう。

また、ネットワークサイドからは、

@上記のような多種多様な機器を容易に接続する小数種類の標準化 されたインタフェースが欲しい。

A多様なアクセス媒体を利用してシームレスにサービスしたい。

Bディジタルテレビやディジタルシネマの大容量リアルタイムコンテンツから一日一度データを送信するセンサ出力に至る多様なトラヒックに対してダイナミックにネットワークリソースをアサインして有効にリソースを使いたい(Self-Organizing Network)。

Cネットワークを流れる様々な社会的、経済的プライオリティを持った情報をそのプライオリティに応 じた信頼性でサービスしたい(Policy−based Net- working 機能)。

D高密度でかつ移動する端末を効率的に接続しルーチングしたい(High Density Network,Ad-hoc Net- work)。

E社会の隅々に張り巡らされたネットワークの不具合や不正利用を容易に検出してできるだけ自動的に対応できるようにしたい。

など、できるだけ多種類の端末を自分のネットワークに囲い込んで、ネットワークリソースを有効に、かつ少ない人的リソースで多彩なサービスを安全に提供したいと考えるであろう。

このような観点で現在のインターネッ トを見ると極めて不十分であり、ユーザとネットワーク /サービスプロバイダ双方の要求条件を満足するには通信プロトコルの上位層から下位層に至る多くのレイヤに手を入れる必要があろう。
ごく最近になって上記のよう なねらいを持った要素技術の研究や製品化が様々なところでスタートしている。

例えばJini(30)やHAVi(31) アーキテクチヤ、UPnP(32)、またホームやオフィスで自由に機器を接続できるBluetooth(33)やHomeRF(34)などがある。

これらは第3世代インターネットのはしりの技術あるいはそれを構成する一要素技術と考えられる。
一方、研究レベルで関連するものを例示すれば、新しいネーミ ング機構に関するMITのINS(Intentional Naming Sys- tem)(35)やUC Berkeley の ICEBERG(36)、NTT研究所の DANSE(37)、慶応大のVNA(Virtual Network Appliance)(38) 、東北大のFNL(Flexible Network Layer)(39)、 などがある。

また、国が支援するプロジェクトとして学術振興会未来開拓プロジェクトに「知的で動的なインターネットワーキング」研究分野が新設され、東大、東北大、京大が中心となって三つのプロジェクトが第3世代インターネットを目標に研究を准進している(40)。

更に政府のミレニアム計画の中で郵政省が支援する「情報家電」及び「スーパーインターネット」プロジェクトが スタートしている。

筆者らはネットサービスシンセサイザ(STONE:Service synThesizer On the NEt)というコ ンセプト(41)で第3世代インターネットを目標とする研究を進めている。

その要素技術を図5に示す。

これらの研究・開発はネットワークの多くのレイヤに関係し、ま たあるものは商用化、標準化の段階にある一方、あるものは10年先を目指した研究であるが、ねらいは21世紀の情報ネットワークインフラとして具備すべき技術の実現にある。

このような研究によってTCP/IPを中心とするネットワーキングパラダイムは次の段階に進歩するにちがいない。




図5 ネットサービスシンセサイザ
 (STONE)のフレームワーク


図6 主な次世代ネットワークテストベッド






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