【 PHS技術を用いた加入者系 無線アクセスシステム 】
(1.9G-FWAシステム)

鈴 木 正 延  下 川 清 志

電子情報通信学会会誌  p.446-448  2000年6月

鈴木正延:正員
日本電信電話株式会社
NTTアクセスサービスシステム研究所
E-mail msuzuki@ansl.ntt.co.jp

下川清志:正員
日本電信電話株式会社
NTTサービスインテグレーション
基盤研究所
Fixed Wireless Access System Using PHS Technology.
By Masanobu SUZUKI, Member (NTT Access Network Service Systems Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Chiba-shi, 261-0023 Japan) and Kiyoshi SHIMOKAWA, Member (NTT Service Integration Laboratories, NIPPON TELEGRAPH AND TELEPHONE CORPORATION, Musashino-shi, 180-8585 Japan).


1.はじめに 2.システム概要
3. 導入の考え方,期待される効果
4. まとめ ■ 文     献  





1. は じ め に

お客様と交換機を結ぶアクセス設備は,メタリックケーブルなどの有線設備を中心に構築してきたが,最近固定無線アクセス(FWA)の導入が活発になっている.東南アジアなど電話基本網の整備・拡充が進められている地域では,ディジタルコードレス電話技術等をベースにしたFWAが導入されている.

 国内では,FWAは地域通信市場の競争促進,マルチメディアアプリケーションの早期普及,及びルーラル地域における情報通信の高度化という点で期待されている.1998年3月には電気通信技術審議会で最大156Mbit/sまでの高速・広帯域サービスを提供するFWAとPHS技術をベースにしたFWAシステム(以後,1.9G-FWAシステムと呼ぶ)について技術的条件が答申された(1).

 1.9G-FWAシステムは,既存の加入電話サービスやISDN(144kbit/s)等のサービスに対応したもので,有線設備では高コストとなるエリアでの老朽メタリックケーブルの経済的な更改システムとして導入が開始されている.  本稿では,現在NTTが開発・導入を進めている1.9G-FWAシステムについてシステム概要,導入の考え方,期待される効果を述べる.

図1 1.9G-FWAシステム

 WCS-WSU間はPHSと同様のエアインタフェースを,WAC-WCS間は光ファイバあるいは他の無線方式で実現する.見通しが得られない場合には,WRSを用いたう回ルートでもサービス提供可能である.



2. シ ス テ ム 概 要

 近年ディジタルコードレス電話やセルラ電話などの移動体通信システムは急激に普及・発展し,無線装置の低コスト化が進んでいることから,これらの無線方式を利用したFWAが開発されている(2).
 1.9G-FWAシステムは,日本国内で商用実績があるPHS技術をベースとしているため,他のFWAに比べて装置コストが安価で,高品質な音声及びデータ伝送が可能なシステムである(3).


 2.1 システム構成

 1.9G-FWAシステムは主に,無線制御局装置(WAC),無線基地局装置(WCS),無線加入者局装置(WSU)及びVインタフェースプロトコル変換装置(V-PTE)で構成される(図1).またWCS-WSU間は,電波産業会(ARIB)及びPHS-MoUにより標準化されたエアインタフェース(3),(4)を採用している.

 (1) 無線制御局装置(WAC)  加入者交換機や専用線ノードと無線基地局装置(WCS)との間に設置され,サービスノードとのインタフェースを終端する機能,WCSまでのエントランス区間のチャネルの制御機能を持つ.WCSまでの信号伝送は光ファイバまたは無線方式を使用する.また,加入者データやシステム全般を管理する機能も持っており,保守運用端末(W-Ops)と対向し,保守・運用情報を転送する.  海外でのスムーズな導入を可能とするため,加入者交換機とのインタフェースにデファクトスタンダードであるV5.2(ITU-T G.965準拠)を採用している.

 (2) 無線基地局装置(WCS,図2)  無線加入者局装置(WSU)とのエアインタフェースの終端及び上位装置とのインタフェース機能を有している.WCS-WSU間は,電波産業会(ARIB)により標準化されたPHS無線インタフェース(RCR STD-28)をベースにしており,約120加入のアナログ電話を収容可能である(表1).  エアインタフェースは公衆PHSと同様であるが,WSUアンテナには指向性アンテナを適用し,比較的高い位置に設置することにより,平均1〜2km(Max.5km)のエリアをカバーできる.

 (3) 無線加入者局装置(WSU,図3)  PHS無線部と加入者インタフェース部で構成される.アナログ電話インタフェース等を終端するラインカードは,有線システムで既に適用しているものを使用することにより,従来のユーザインタフェースの提供を可能にした.WCSからの距離が約2km以上離れているWSUについては,無線区間での伝送遅延を補償するために送信信号の早出し機能を搭載している.目的・用途に応じて,柱上に設置する屋外用と家屋の壁面等に設置する屋内用がある.また,防風林の陰などでWCSからの電波が届きにくいエリアのWSUは,無線中継局装置(WRS)を使用して収容する.

 (4) Vインタフェースプロトコル変換装置(V-PTE)  加入者交換機の既存多重インタフェースとλシステムのV5.2(ITU-T G.965準拠)インタフェースとを終端し,交換機からのアナログ電話/ISDN制御信号とλシステムのV5.2メッセージとのプロトコル変換を行い制御情報を接続する.アナログ電話最大448加入*1,ISDN最大96加入*1を収容可能である.

*1:アナログ電話のみ,または,ISDNのみの場合の収容数.


2.2 提供サービス

 アナログ電話,INSネット64及び128kbit/sまでの高速ディジタル伝送など,現在のメタリックケーブル加入者設備で提供しているサービスをおおむねサポートしている.


表1 無線方式諸元

-
項  目
周波数帯
1,893.65〜1,919.45MHz
変復調方式
π/4 shift QPSK
通信方式
TDMA-TDD
音声符号化方式
32kbit/s ADPCM
伝送速度
384kbit/s
キャリヤ間隔
300kHz
WCSのCH数
15TCH + 1CCH (アナログ電話 120加入収容可能)
送信出力
WCS : 20mW(ピーク 160mW)
WSU : 10mW(ピーク  80mW)
アンテナ利得
WCS : 10dBi(無指向性)
WSU : 10dBi(指向性:標準タイプ)、
16dBi(指向性:高利得タイプ)
セル半径
平均1〜2km(最大5km)


図2 商用運用中のWCS (鹿児島県徳之島)

  安定な電波伝搬状態を確保するため,アンテナは電柱最上部に,WCS・エントランス用無線装置及び蓄電池箱は施工性を考慮して電柱中央部に設置する.
図3 屋内用WSU及びWSUアンテナの設置状況
(鹿児島県徳之島)

  台風などによる通信ケーブル切断障害が多発する地域ではアンテナを家屋の軒下や壁面に設置し,WSU本体(右下)を屋内に設置する.



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