【 アクセスネットワークの現状と将来展望 】

三 木 哲 也   篠 原 弘 道



  アクセス市場における事業形態として,最近脚光を浴びているのがローカルループアンバンドルである.従来,通信サービスを提供する事業者は自身で必要となる通信設備を保有することが前提になっていた.しかし,自身は線路設備を保有しないで,通信事業者から設備の利用権を得てIP通信を提供するサービス提供事業者が出現してきた.このように通信事業者の保有するアクセス設備をすべて,もしくは一部を他事業者に開放することをローカルループアンバンドルと呼ぶ.ローカルループアンバンドルの対ケーブルに,DSL技術を適用したIP通信サービス事業が,その具体例である.対ケーブルのローカルループアンバンドルには,図2に示すように,ドライカッパー,ラインシェアリング,ビットストリームの3種類がある.ドライカッパーは対ケーブルそのものを開放する形態である.サービス提供事業者にとって最も自由度の大きい方法であるが,サービス提供事業者が負担する設備コストは最も大きくなる.ラインシェアリングは,対ケーブル上の一定の周波数領域を開放する形態である.ドライカッパーに比較して自由度は小さくなるが,電話サービスとIP通信サービスでペア線を共用するため,サービス提供事業者の負担は小さくなる.ビットストリームは文字どおりディジタル伝送能力が開放される方式である.



図2 各ループアンバンドルの特徴
ループアンバンドルはPOIの位置によって3種類に分けられる.
通信事業者は自身が負担する設備コストとサービスの自由度を勘案して各方式を選択することができる.


 このように,アクセス系の技術の多様化と,ローカルループアンバンドルによって,アクセス市場でのサービスと技術の競争が一層進展してゆくと思われる.



■3. アクセスネットワークの変遷

 
通信事業者のアクセスネットワークは,これまで対ケーブルを中心に建設されてきた.加入電話の積滞が1978年に解消されるまで,長期間にわたり対ケーブルの大量布設が続いた.現在でも,この時期に布設されたケーブルの多くを利用しており,老朽化に伴って品質維持・管理の問題が生じている.この老朽化への対処として,対ケーブルによる設備更改か,光ファイバによる設備更改か,という選択肢がある.情報伝送の主体が電話から高速データへと移行していくことを考慮すると,将来のアクセスネットワークでは光ファイバが本命であるといえる.しかしながら,光ファイバケーブルの設備コストは対ケーブルのそれより高価となる.そこで図3に示すように,光ファイバケーブル設備の経済化を行いながら段階的にユーザの近くまで光化を進めてゆくことが,手法としてとられてきた.

 対ケーブルの行き渡った先進国の通信事業者は,同様な手法で光化を進めている.日本では,アクセス回線の多重化方式であるCT-RTシステムやπシステムを利用して,FTTCab (Fiber To The Cabinet)やFTTC (Fiber To The Curb),あるいはFTTB (Fiber To The Building)といった光化が進められた.FTTCabやFTTCは,それ自体が目的ではなく,次世代の本格的な高速通信への即応性を主眼としたものといえる.すなわち,設備更改の経済性を損なわない範囲でユーザの近くまで光ファイバケーブルを準備し,高速通信を必要とするユーザが出てきたときにはわずかな追加工事で対応する,という考え方である.


図3 光化の展開
光ファイバケーブル設備の経済化を行いながら
段階的にユーザの近くまで光化が進められてきた.



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