【 アクセスネットワークの現状と将来展望 】

三 木 哲 也   篠 原 弘 道



■7. 今後のアクセスネットワークの方向

  IP通信の利用形態が高度化するに従って,広帯域化・高度化に対する要望はますます高まってくると予想される.例えば,ストリーム系サービスやネットワークゲームのようなサービスでは,遅延時間が小さいことが必要条件である.また,IP通信が本格化すると,セキュリティやQoS (Quality of Service,通信品質)への要求も一層高まってくるだろう.

  今後は光アクセスの比重が高まってくると予想されるが,WDM (Wavelength Division Multiplex)伝送の低コスト化に伴い,アクセス系における波長の活用法も検討課題となっている.現在,WDM伝送は中継伝送路を経済的に大容量化する技術として使われている.しかし,アクセス系では距離が短いため,同様な経済化効果は期待できない.アクセス系では,ネットワークのシンプル化,サービス提供の柔軟性に資する技術としての可能性が高いと考えている.例えば,多種類のサービスを提供するアクセス系を,すべてを電気多重によるのではなく,波長多重と電気多重を組み合わせることで,シンプルかつ柔軟性に富んだネットワークを作ることである.

 アクセスネットワークの高度化と並行して,ユーザ宅内・構内ネットワークの高度化が重要である.ユーザが利用する端末の数,種類が増大するにつれ,それら端末を有機的に結合させる仕組みが必要になってくる.また,多様な宅内・構内ネットワークと種々のアクセスネットワークを柔軟に接続する機能が必要になってくる.これらの機能を果たすものとして,STB (Set Top Box)やホームサーバをベースとしたC-GW (カスタマゲートウェイ)の開発が始まっている.現在議論されているC-GWの多くは,端末間の有機的な結合を目的としているが,今後はC-GWとアクセスネットワーク間で情報を授受することにより,両者が連携した新たなサービスが創出されることが期待される.




■8. 最  後  に

  情報通信におけるアクセスネットワークの重要性は今後ますます高まってゆく.電話に最適化された対ケーブル中心のアクセス系のアーキテクチャを,種々の伝送媒体を組み合わせることを前提として,IP通信による新たなサービスを考慮した新しいアーキテクチャに転換していくことが必要になっている.

 また,アクセスネットワークは単にユーザとネットワークを結びつける情報伝達機能に止まらない.特に,一般ユーザにとってはアクセスネットワークによって情報通信環境が定まるからである.長い間,アクセスネットワークにおける研究開発の指標は“経済化”であった.これからは,ユーザの情報化生活に直結する多種多様な要求にこたえられる“サービスの創出”が第一義的な指標にならなければならない.

 このように,いまアクセスネットワークは研究開発の転換期に直面している.情報化社会の高度化に直結するアクセスネットワークの重要性を認識して,これらの課題に挑戦してゆくことが関連する技術者の責務だと考えている.






三木 哲也(正員:フェロー)

昭40電通大・理工・電波卒.昭45東北大大学院博士課程了.
同年日本電信電話公社(現NTT)入社.
以来,ディジタル伝送,光通信,情報通信ネットワーク等の研究に従事.
平7電気通信大・情報通信工学科教授.工博.
平8年度通信ソサイエティ会長,平11〜12年度監事.前コミュニティ・ネットワーク時限研究会委員長.
昭52年度業績賞受賞.IEEEフェロー.情報処理学会, 日本社会情報学会,IEEE各会員.
   
篠原 弘道(正員)

 昭53早大大学院修士課程了.同年日本電信電話公社(現NTT)入社.
以来,光アクセス技術の研究開発及びSEに従事.
昭63伝送システム研究所,平5技術調査部にてアクセス系光高度化戦略,
マルチメディア展開に従事し,平8光ネットワークシステム研究所を経て平10より現職.




6/6


| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.