●解説     緒方 正人    梶原 景範    藤野 勝



電子情報通信学会誌

Vol.84 No.3 pp.167-171

2001年3月
緒方正人 正員 三菱プレシジョン株式会社開発本部
E-mail ogata@mpcnet.co.jp

梶原景範 三菱プレシジョン株式会社開発本部
E-mail kajihara@mpcnet.co.jp

藤野 勝 (有)プサイ
E-mail pfujino@mh.scn-net.ne.jp

Technical Trends of Real-Time Computer Graphics. By Masato OGATA, Member, Kagenori KAJIHARA, Nonmember (RESEARCH & DEVELOPMENT DEPARTMENT, Mitsubishi Precision Co., Ltd., Kamakura-shi, 247-8505 Japan), and Masaru FUJINO, Nonmember (PSI (Problem Solving Institute), Kanagawa-ken, 255-0005 Japan).

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■1. は じ め に

 最近,Computer Graphics(CG)技術が,プレイステーション2(PS2)のようなTVゲーム,ジュラシックパークなどの映画,TVコマーシャルなどに応用され一層身近なものになってきた.また,バーチャルリアリティ(人工現実感,VR),サイエンティフィックビジュアライゼーション(SV)などの言葉を各種メディアで見聞きする機会も増えてきた.  振り返ってみるに,実時間CGの実用化において先駆的な役割を果たした技術は,フライトシミュレータをはじめとする各種シミュレータ用模擬視界装置(ビジュアルシステム)であると考える.筆者らは,同システムの開発・応用に長年携わってきたので,その観点から実時間CG技術を概観してみようと思う.

 本稿では,CG技術なかんずく実時間CG技術の現状,その技術発展の歴史,及び将来展望について述べる.




■2. 実時間化の歴史

 
2.1 CGアルゴリズムの発展

 CG技術は,1963年にIvan Sutherlandが対話型図形表示システムSketchpadを発表したことによって世間一般の認識するところとなった(1).対話型図形表示システムの源流は1950年代の米国国防計画SAGE(Semi Automatic Ground Environment)に見ることができる.1960年代になるとCAD(Computer Aided Design)という概念が一般的になり,SAGEの技術がCADに生かされるとともに,CGの研究開発が加速されていった.このころの表示対象は線画が主であって,表示装置もベクトルスキャン型のCRTであった.三次元グラフィックスのための座標変換及び透視変換を統一的に処理する手法として同次座標系がRobertsによって考案された(2)(1965).

 1970年代になると,1960年代後半に起ったIC(Integrated Circuit)技術が発展しLSIの集積度が向上し,1チップマイコンが開発され,後半にはパソコンが出現した.また大容量の高速なメモリが安価となり,ラスタスキャン型ディスプレイが利用可能となった.

 それまでの線画に変って面画に関する技術開発が盛んに行われた.代表的なものは,隠面処理手法として,Wylie(3)(1967),Watkins(4)(1970)によるスキャンラインアルゴリズム,Warnock(5)(1969)のDivide and Conquer方式などが発表された.三次元曲面のための陰影表示手法としてGouraud(6)(1971),Phong(7)(1975),やBlinn(8)(1977)の方法がある.ポリゴンクリッピングアルゴリズムとしてSutherland-Hodgmanの方法(9)(1974)が有名である.リアリティを飛躍的に向上させたテクスチャマッピングの手法がCatmull(10)(1974),Blinnら(11)(1976)から発表された.

 1980年代になると,リアルな画像を生成するための技術が多数発明された.まず,レイトレーシング法がWhitted(12)(1980)によって発表され,その後多くの人々によって改良された.計算機作画に独特のジャギーな画像を改善するアンチエイリアシング手法がGuptaら(13)(1981)によって開発された.テクスチャマッピングにおけるエイリアシングを改良するMIP mapテクスチャがWilliams(14)(1983)によって発表された.間接照明効果を表現するラジオシティ法がGoralら(15)(1984),西田ら(16)(1985)によって開発された.

 また,三次元空間中の情報の可視化技術として,ボリュームレングラフィックス(VG)がkajiya(17)(1984),Upson(18)(1988)らによって始められ,現在まで多くの人々によって研究されている.

 1990年代になると,CGは社会に広く浸透し,よりアプリケーション向けの技術開発が盛んになった.例えば,アニメーション,サーフェイスシンプリフィケーション,イメージベースドレンダリング(IBR),ノンフォトリアリスティクレンダリングなどである.




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