●解説     雨宮 好文



電子情報通信学会誌

Vol.84 No.4 pp.227-232

2001年4月
雨宮好文 正員:フェロー 金沢工業大学通信技術研究所

Health Effects and Protection Guidelines of ELF Electromagnetic Fields. By Yoshifumi AMEMIYA, Fellow (Telecommunication Technology Laboratory, Kanazawa Institute of Technology, Ishikawa-ken, 921-8501 Japan).
< ABSTRACT >
 商用周波50/60Hzの電磁界の健康影響に対する限度値(許容値)は国際非電離放射線防護委員会(略称ICNIRP)1998年指針で示される.例えば一般人の50Hz磁束密度の限度値は1ガウス,電界強度の限度値は5kV/mである.身の回りの電磁界はこの値以下であるので,健康影響はない.上記の磁束密度限度値の500分の1程度の低レベル磁界に発がん性があると述べる疫学論文には,ポジティブとする実験的証拠がないことから,多くの専門家は懐疑的であり,現在この問題に対する磁束密度の限度値が定められる情況にはない.

キーワード:生体影響,防護指針,刺激作用,RAPID計画,疫学



■1. ま え が き

 最近のこの分野では,50/60HzをむしろELFと呼ぶことが多いので,本稿もそれに従う(ELFとは正規には30〜300Hzの総称であるが).また電気技術者以外の関係者も多いので,磁束密度の単位としてはテスラ(T)の代りに慣用的なガウス(G)を使うものとする(1 T=10,000G).
 人体と50/60Hz電磁界の間には,直接結合あるいは間接結合がある.
 直接結合とは外部電磁界により人体内部に誘導電流が生じるものである.それによって筋肉細胞や神経細胞が刺激される.間接結合には,電磁界により金属物体(例えばバス車体など)が高い誘導電位を持ち,これに人体が接触したとき大電流が流れるものがある.それによって電撃が生じる.電撃については知見がよく整理され古くから防護対策が確立している.他の間接結合の例として,非接地の人体と金属物体間のスパーク放電の発生とこれに伴う不快感,ペースメーカへの干渉とこれによる機能不全等がある.

 ELFの健康影響の研究は1980年代以降に特に活発となり,WHOは多数の報告を集約して1984年と1987年に環境基準文書(指針ではない)を刊行した(1),(2).防護指針として,1989年設定の国際非電離放射委員会(IRPA/INIRC)による50/60Hz電界・磁界のばく露限度値の暫定指針(3),1998年設定の国際非電離放射線防護委員会(IRPA/INIRCの後身でICNIRPと略称)による1Hz近辺から300GHzにわたるばく露限度値の指針(4)がある.

 ばく露とは電磁界に当たる(さらされる)ことである.ばく露限度値とは,電界,磁界,磁束密度等の許容値のことであり,これらはICNIRP 1998指針では参考レベルといわれている.本稿では主として限度値と呼ぶことにする.防護指針は,健康への有害な影響を防止するためのばく露限度値を示すほか,それが定められた根拠,適用範囲,測定上の注意等に関する情報を解説文の形で含んでいる.

 多くの実験結果から,人体内に誘導されたELF電流密度が10μA/cmを超えるときに神経系細胞の刺激が起きるとみられる.そこで,職業人では安全係数を10として1μA/cm(一般人では0.2μA/cm)を誘導電流密度の限度値と定めた.これを生じる外部磁束密度が磁束密度の限度値として上記指針で示される.例えば,職業人の50Hz磁束密度の限度値は5G(一般人は1G)である.




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