●解説     雨宮 好文



■2. ELF電磁界の刺激作用と影響

  2.1 電流密度と生体影響

  生体組織に電流が流れたときに,神経や筋肉の興奮性細胞が刺激を受け,電流密度の大きさにより様々な生物学的影響(生体影響)が生じる.Bernhardt(5)は,各種の生体影響に対する電流密度のしきい値を周波数の関数として図1のように示した.

図1 各種の生体影響と電流密度しきい値(文献(5)の抜書き)

 図でA は人体組織に自然に流れている電流(内因性電流)の平均値を示す.@,Aはそれぞれ磁気閃光及び電気閃光を生じるしきい値(計算値)であり,その生体影響が予期され観察される範囲をB で示す.Bは神経/筋肉システムに対して刺激を生じるしきい値,Cは面電極直下の受容体に刺激を生じるしきい値であり,それらのエンベロープとしてのしきい値をC で示す.Dは1秒以上の刺激時間において心室細動を生じるしきい値,D は心臓期外収縮及び心室細動のしきい値のエンベロープとしてのしきい値を示す.

 WHO(2)は,これを表1のように整理している.なお,内因性電流は脳では0.1μA/cu以下の程度,心臓では1μA/cu以下の程度であるとも述べている.
 
 ICNIRP1998指針(4)は,数Hzから1kHzの範囲では,電流密度が10μA/cuを超えると中枢神経系興奮の急性変化及び視覚誘発電位の反転などの急性影響が生じると述べている.




  2.2 外部電磁界と誘導電流密度

 外部電磁界により体内に誘導電流が生じる.人体組織の導電率には異方性があり,電流経路は正確には分からない.Bernhardtは,心臓及び脳における誘導電流密度の大きさを概念的に見積もるために,それらを等方性球体でモデル化した(5).このとき,外部電界E ,外部磁束密度B によって生じる各誘導電流密度IeIm


で与えられる.ここでf は周波数,R は球半径,σ は球の導電率である.

外部電界による誘導電流の向きは外部電界と同じ向きであり,大きさは球内のどの点でも同一である.これに対して外部磁界による誘導電流の向きは外部磁界に直交してトロイダル状であり,大きさは球表面で最大で球内では減り中心で0である.式(1)のImは球表面の電流密度を表す.また脳では,σ=0.20S/m,心臓では,σ=0.25 S/mの仮定が妥当であるとみて,式(1)の第2式は両領域で統一的に


 で表される.

表1 ELF電流密度(3〜300Hz)と生物学的影響(2)



 表1によれば,電流密度0.1μA/cuが流れるときの生物学的影響は十分安全サイドにある.この値の密度の誘導電流を生じる外部電界Eは,式(1)の第1式によれば約7kV/mと見積もられ,また心臓周縁及び脳周縁にこの値の密度の誘導電流を生じる外部磁束密度は約4Gと見積もられる.

  この7kV/mの強さの電界は,成人男性が毛髪や体表で感じる電界知覚のしきい値を既に超えている(2.4).したがって電界を高くしていく場合は,このような電界の影響と誘導電流が増えることによる表1の影響とが重なって現れることになる.これに対して磁界を高くしていく場合には,表1の影響だけが観察される.2.3でこの場合について述べる.




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