【 −システムLSIの可能性と課題− 】

黒 田 忠 広



■2.システムLSIのアプリケーション

 集積回路の進展に伴って,システムの容積や重量のみならず製造コストも“ダウンサイジング”してきた.例えば,コンピュータの場合を見てみよう(図1).1960年代の大型コンピュータは,数億円の高価なもので,国防に使われた.1970年代になると,数千万円のミニコンが大学の研究室で使われた.1980年代には,数百万円のワークステーションが産業界でエンジニアリングに使われ,1990年代には,数十万円のパソコンがオフィスの自動化に使われたのである.

 集積回路が今後も進展するならば,コンピュータは更にダウンサイジングするであろう.PCは,十分に安くて使いやすいとは,まだいえないからである.そしてコンピュータの価格は更に下がり,アプリケーションは我々の身近なものとなるであろう.これからのコンピュータは,どこでも使えて,ネットワークを介して膨大な資源や情報を活用でき,生活の質を改善する道具へと進化していくであろう.すなわち,PCから,ポータブル(持ち運び可能),ウェアラブル(着用可能),インプランタブル(体内に埋め込み可能)へと“ダウンサイジング”していくと考えられる.価格も,数万円,数千円,数百円と低下していくであろう.



図1 コンピュータのダウンサイジング
  1946年に誕生した世界初の電子汎用計算機ENIAC(白黒写真)と現在のノートPC(カラー写真).
大きさ,価格,共に大きくダウンサイジングして,性能は格段に向上した



 ウェアラブルコンピュータの一例を図2に示す.片方の手と目で膨大なマニュアルのページをめくり,もう一方の手と目で装置を調べることができるので,航空機やコンピュータの整備点検などに効果を発揮する.図3に示すのは,カーネギーメロン大学がアイデアを示したディジタルインクというウェアラブルコンピュータである.このペンを使うと,どんな紙の上に書いた手書き文字でも認識されてディジタル情報に変換され,ペンに入力される.それをメールやFAXにして無線で送信できるのである.



図2 ウェアラブルコンピュータ
 腰につけているのがマウスとキーボードに相当する入力装置で,
マウント型ディスプレイが表示装置になる.
片方の手と目で膨大なマニュアルページをめくり,もう一方の目と
手で装置を調べることができるので,航空機やコンピュータの整備点検に向く.


図3 ディジタルインク                        
  カーネギーメロン大学がアイデアを示したウェアラブルコンピュータ.
このペンは,手書き文字をディジタル情報に変換してペンに入力し,
メールやFAXにして無線で送信できる.
http://www.wearablegroup.org/


 


 インプランタブルの一例を図4に示す.眼球にチップを埋め込み,失明した人の視力を復活させる技術がノースカロライナ州立大学で研究されている.網膜神経を電気的に刺激して視力を復活させる試みは,既に臨床試験で成功している.応用は,ほかにも創造力の限り広がるであろう.例えば,小さな粒のチップを飲み込むと,そのチップが体内の写真を撮り,それを腰につけた小さな受信装置に無線で送る.その受信装置をネットにつないで写真を主治医に送ると,診断結果と処方箋がメールで送られてくる.そういったことも近い将来可能になるであろう.






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