中 川 正 雄



■2. O F D M

2.1 搬送波の数

 変調方式として,最近では第2世代(2G)の移動通信に利用されているπ/4シフトQPSKやディジタル衛星放送に利用されている8相PSK方式があるが,これらはすべて単一の搬送波を利用したものである.単一の搬送波では情報の速度が低い場合には問題が少ない.こうした変調信号が都市空間のような複雑な伝送路を通過してもマルチパスによってシンボル間が干渉するISI(Inter-Symbol Interference)のような波形ひずみを起しにくいからである.現に,2GのPDC(Personal Digital Cellular:日本におけるディジタル方式標準の一つ)方式では音声伝送を中心におくので,単一の搬送波を利用している.3GにおけるWCDMAでも単一搬送波を利用しているが,音声以上の高速伝送をするために,ISIへの対策として後述するCDMAが利用されている.音声以上の伝送速度を追求しようとするとどうしてもISIの影響を軽減させる工夫が必要になり,複数の搬送波を利用する方式としてOFDMがある.


2.2 ISI軽減法

 伝送路で生じたひずみの軽減には大別して二つの方法が考えられる.まず,ひずんだものを受信側で回復させる方法.もう一つはひずまないように,送信側で対策を立てる方法である.前者には等化器による方法がある.これは,ひずんだ周波数特性を元に戻す方法であるが,移動通信においては時々刻々変動する伝送路に合わせて適応的な等化が必要で,高価なものが要求される場合も多い.OFDMは後者に属する(1),(2).図1(a)にはOFDM送信部が示される.直列的複素時系列データは直列-並列変換によって並列的複素データになり,これによって,正弦と余弦の搬送波のペアを変調する(1).複素データのb(n)をゼロとして,a(n)=1,または−1とすれば2相の信号点を持つBPSK(Binary Phase Shift Keying)になり,更に展開すればQAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの多値変調も構成できる.図1ではM個のペアの場合を示しているが,これらの周波数とデータのシンボルレートの間には次の式(1)ような関係がある(1).すなわち,

fn=f0+nΔf(n=0 to M−1),Δf=1/MΔt(1)

ここでΔtは元の直列データのシンボル長であり,MはOFDMの搬送波ペアの数である.この式はOFDMの複数搬送波間の直交関係を表すものであり,これを満たすと搬送波ごとに並列に割り振られたデータ間の干渉がなくなる.互いに複数の搬送波のスペクトルは重なっているが,受信側では式(1)のおかげで搬送波間の干渉なしに受信ができる.

 図2は図1のシステム図と等価なOFDMシステムをDFT(Discrete Fourier Transform)で構成した場合を示す(1).図1をそのまま構成しようとすると,搬送波の数が多い場合にはどうにも実現ができないが,DFTによると可能になる.地上ディジタル放送の変調として数千波のOFDMが利用されている場合もある.

 直列データシンボルをそのまま変調する単一搬送波の変調方式ではシンボルの時間長Δtが短いために,ISIの影響が強くなる.例えば1Mシンボル/sのデータを伝送するのであればΔt=1μsであり,数kmの半径のセルラシステムの場合これと同じ程度の遅延スプレッドもマルチパスによって十分に起り得るので,大きく特性が劣化する.一方,M波のOFDMでは,シンボル長がこれのM倍になるので,遅延スプレッドの影響は小さくなる.しかし,そのままでは前のシンボルが次のシンボルに重なる部分が残っているので,遅延スプレッドが十分に吸収されるような長さのガードインターバルを各シンボルごとに設定する.これはシンボルの後部の波形を前部に付加し,繰返しの冗長な部分を作ることで実現する.遅延スプレッドで間延びした部分をガードインターバルに落とし,次のシンボルへの影響を軽減する.しかしながら,これによるシンボル速度の低下は否めないが,Mを大きくすることで,この低下を抑えることができる.当然のことであるが,シンボル速度を一定にすれば周波数帯域幅の増加になる.




図1 基本的なOFDMシステム  データを並列にし,各搬送波に配る.




図2 DFTを用いたOFDMシステム  搬送波の数が多いときの実現可能なシステム.

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