■1. は じ め に

 レーザは1960 年にマイクロ波レーダ技術と関連して研究開発されたもので,レーザレーダ(Laser Radar)の研究開発の歴史も長い(1)〜(3).特に大気観測の分野ではライダ(Lidar)と呼ばれている.図1にレーザレーダシステムの基本構成と測定の概念を示す.

 高出力のレーザ光を大気中に照射して大気の三次元分布を遠隔的に計測するもので,レーザの高コヒーレンス性(高指向性と狭スペクトル性),高出力,短パルス特性などにより高い空間分解能と高感度特性が実現される.特に,光波は電波や音波と比べて物質との相互作用の形態が多様であるため,多くの物質の物理情報や化学情報の計測に適している.測定対象として大気汚染や気象要素の観測,更に海洋や陸地の環境計測などがあり,また装置の形態として固定設置型と移動型があり,後者には車載型,航空機や衛星搭載型などが開発されている.


図1 レーザレーダ(ライダ)の基本構成と測定原理
■2. 粒子状物質のセンシング

 大気中には直径数nm〜数μmの固体粒子エアロゾルや10μm〜数mm の水滴や氷晶が浮遊しており,ミー散乱によりレーザ光を強く散乱する.ミー散乱ライダではその後方散乱係数,あるいは消散係数が求められ,大気汚染の指標である浮遊粒子状物質(SPM)の濃度や空間分布が測定される.また,エアロゾルをトレーサとして大気の構造が観測される(4).図2にミー散乱ライダによる晴天時における対流圏下層大気エアロゾルの後方散乱係数βの高度分布の時間変化についての測定例を示す.太陽光の照射により地上からのエアロゾルが上空に拡散され,上部の清浄な大気との境界層を形成しており,その高度が時間により変化していることが分かる.この接地境界層の高度から地上付近の大気汚染度が推定できる.

 このような対流圏エアロゾルの定常的な観測や中国大陸からの黄砂の高度分布をアジア各国のライダで観測するネットワークが形成され,エアロゾルの拡散移流についての詳細な研究が開始されている(4).

 また,レーザ光を水平方向または垂直方向に走査するライダではエアロゾルの二次元分布が観測できる.図3に工場付近における排煙濃度の水平分布の測定結果を示す(5).この装置はレーザ波長が1.55μmの目に安全なアイセーフ波長の光パラメトリック発振器を使用して,小型の装置構成であることが特徴として挙げられる(6).このような測定により工場や道路等の汚染発生源からの拡散状況が可視化できるもので,肉眼では見えない大気汚染の動態の定常監視が実現できる.更に,多数のミー散乱ライダ装置のネットワークを構成することにより,大都市や広域の大気汚染の監視と予測が可能になる.

図2 晴天大気中のエアロゾル高度分布の時間変化
(波長532nm,平均出力0.5W,パルス繰返し周波数20Hz,受信鏡直径25cm,福井大学).


図3 ビーム走査型ミー散乱ライダによる排煙濃度の水平面分布の観測結果
(レーザ波長1.55μm,平均出力0.6W,パルス繰り返し周波数20Hz,受信鏡直径25cm,福井大学(5))






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