■1. は じ め に

 自然界には,波長が1km以上もの長波から,ごく短い波長の可視光線やX線に至る様々な波長領域の電磁波が存在する.これらほとんどの波長領域の電磁波は,それぞれ独自の発振源や光源によって人工的に発生することができ,ラジオ,テレビ,電話等の情報通信技術への応用,診断や治療を行うための医療技術への応用など,我々の豊かな日常生活になくてはならない技術へ応用されている.

 「遠赤外領域」は,これらの幅広い波長領域に存在する電磁波のうち,波長が10mmから10μm(100分の1mm)の間にある電磁波の領域であり,電波と光の中間に位置している.この領域は,人工的に発生することが困難な唯一の波長領域であり,新分野を切り開くための課題が山積しているにもかかわらず,使用に耐える高出力光源がない.

 本節では,新たな原理に基づく遠赤外領域高出力光源「ジャイロトロン」の開発について概観し,この光源を応用した大気圏・環境リモートセンシングについて述べる.
表1 超高出力ミリ波ジャイロトロンの開発の現状

開発した研究機関名
周波数(GHz)
出力(MW)
高調波次数
FZK(ドイツ)
140.1
2.1
1
162.3
1.5
1
GYCOM(ロシア)
140
1.0
1
170
1.4
1
JAERI,Toshiba
(日本)
170.1
1.15
1
170
0.75
1
NIFS,Toshiba
(日本)
140
1.04
1
158
0.52
1

表2 超高周波ジャイロトロンの開発の現状

開発した研究機関名
周波数(GHz)
出力(MW)
高調波次数
MIT(米国)
327
375
1
503
10
2
IAP-RAS(ロシア)
650
40
1
326
1.5
2
FIR FU(日本)
403
12
1
889
0.1
2
シドニー大学(豪州)
315
0.02
1
620
0.001
2
■2. 遠赤外領域高出力光源「ジャイロトロン」

 ジャイロトロンは,相対論的効果による電子の質量変化を利用した「サイクロトロン共鳴メーザー作用」を発振原理とするミリ波・サブミリ波光源である.その動作の特長として,(1)ビーム効率30〜50%に至る高効率動作が可能であること,(2)高エネルギー大電流電子ビームの注入による高出力動作が可能であること,及び(3)サイクロトロン周波数の設定を変えることにより波長可変性を達成できること,が挙げられる.現在までに,世界的規模の開発研究が進展し,単管出力が2MWを超える超高出力ミリ波帯ジャイロトロンが開発され(1),プラズマ加熱及び高品質セラミック焼結のための高出力ミリ波源として応用されている(表1参照).

 他方,ジャイロトロンの超高周波化の研究も並行して行われ,1THzを目指した周波数可変のジャイロトロンが実現している.MIT(米国),IAP(ロシア),シドニー大学(オーストラリア)及び福井大学では,後者の超高周波ジャイロトロンの開発が行われ,核融合プラズマ計測,サブミリ波ESR分光等,遠赤外領域の新技術開発のための光源として応用されている(2)(表2参照).現状では,サイクロトロン2次高調波を用いた福井大学のジャイロトロンが,周波数890GHz,出力0.1kWを達成している.図1に,典型的な高周波ジャイロトロンの概略図を示す.17Tに及ぶ高磁場超伝導マグネットの中心軸上にジャイロトロン管が設置され,円筒空洞共振器に入射された電子ビームの旋回エネルギーがサイクロトロン共鳴によって高周波電磁波エネルギーに変換されて,発振が起きる.

図1 高周波ジャイロトロンGyrotron FU W(福井大学)の概略







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