2.2 遺物に適した測定法とその基本原理

 考古遺物の形に関する計測では,点(ポイント)計測,線(ライン)計測,面(エリア)計測の三つに分類できる.点計測は,限定された特徴点の三次元位置や,特徴点間の距離を測定する.線計測はいわゆる水平断面図や垂直断面図の作成に必要で,面計測は土器などの加工曲面の把握に必要である.あらかじめ遺物の種別や研究調査目的が定まっている場合は,特徴点の点計測で十分であることも多いが,後世にどのような特徴が研究上必要になるのか分からない場合は,面計測で対象遺物全体の形状を保存しておかなければならない.しかし,一般に点計測は高精度かつ簡便であるのに対して,面計測は低精度,長時間計測でかつ手間を要する問題がある.点計測の精度と簡便さを面計測が凌駕するには,最先端の面計測技術を適用する必要がある.

 一般的には遺物はぜい弱であるので非接触の計測手法が望ましく,光学的計測法に対する期待が大きい.光学的計測法は受動的方法と能動的方法とに大別できる.受動的方法とはステレオ写真測量法のように計測対象をそのまま画像としてとらえる方法で,計測対象や計測環境に拘束されず,撮影するだけでよいという利点がある.しかし,人間のオペレータが直接図化するケースを除き,自動処理では結果の信頼性を十分保証できない問題点があり,現状では受動的方法が主流となる可能性はない.

 それに対し能動的方法は計測対象になんらかの光パターンを照射して目印を付ける方法であり,信頼性が高い.産業用途での実用化が進んでおり,種々の計測対象,計測環境に対してのノウハウが集積されている利点もある.能動的方法の中でも遺物計測に応用でき,かつ実績もある計測法は,モアレ法と光切断法(パターン光投影法を含む)と筆者は考える.以降,これらの基本原理を簡単に説明する.

 (1) モアレ法(4)
 モアレ法では計測対象に細いストライプ状の格子パターンを斜方から投影する.物体形状に応じて変形した格子パターンと元パターンとの空間的干渉縞がモアレ像と呼ばれるもので,しまそのものが等高線となる.一枚の画像撮影でよく装置も比較的簡便であるが,凹凸の識別が行えず自動解析には不向きである.しかし最近,格子パターンの位相をシフトさせたパターンの投影から凹凸の自動解析も可能になっている.またモアレ像を三次元形状データに変換しなくても,モアレ像を観察するだけで遺物の特徴を把握することができ,古典的ともいえる方法ではあるがその重要性は薄れてはいない.

 (2) 光切断法(5)
 光切断法は,図1に示すように,計測対象にレーザ光などの輝度の高いスリット光を投影し,スリット光であたかも物体を切断するかのようにして,別の方向からその像をディジタルカメラで撮影する.光で三角形を構成し,三角測量の原理で距離を算出する方式である.スリット光の投影位置を走査させて遺物全体の形状データを得る.図2(a)に筆者らが構築した遺物の全周形状を計測するシステムの構成を示す(6).光切断法に基づいたレーザレンジファインダを台車に搭載し,これを遺物の周りを移動させて計測する(同図(b)),レンジファインダの世界座標における位置姿勢を対象物テーブルに固着させた磁気センサで同時計測することで,得られた形状パッチデータを世界座標の中で合併する.

 


(a)光切断法の原理

(a)

光切断法センサを搭載した移動型遺物形状計測システム(形状センサを搭載した台車が静置させた遺物の周りを周回し,遺物全周の形状計測を行う)

(b)遺物の凹凸で上下に歪んだ赤外線レーザ
スリット光(赤外線を可視化処理している)


図1 光切断法による形状計測

(b)計測している様子



図2 銅鐸の全周形状計測(6)



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