■2. フォトニックIPネットワークのインパクト


 ここではインターネットに対するフォトニック技術のインパクトをノードのボトルネックの解消,IP over XXXのプロトコルスタックの簡略化,ノードの消費電力と小型化の視点から明らかにし,フォトニックIPネットワークの動機付けとする.

 2.1 ノードのボトルネックの解消

 WDM技術はトラヒックの伸びをフォローするように増加し,リンクの容量も同様のペースで伸びている.一方ネットワークのノードでは,リンクから流れ込むトラヒックがいったん電気信号に変換され,ルータにより電気的に処理されているが,この処理を担うCPUの処理能力の伸びはムーアの経験則に従うので,1.5年で2倍のパワーアップしか望めない.事実,ルータのスループットは過去5年間にたかだか数十倍の伸びに止まっている.したがって,早晩ネットワークのノードでボトルネックが生じ,トラヒックがノードで目詰まりを起こすような状況が生じるものと予想される.このようなノードのボトルネックを解決するためには,ノードの転送機能の超高速化が喫緊の課題である.この問題解決の切り札はフォトニック技術をおいてほかにはない.ストリームデータに対しては2.4で述べるノードのカットスルーが有効であり,パケットに対しては4.2のフォトニックプロセッシングがソリューションとなるであろう.

 2.2 IP over XXXプロトコルスタックの簡略化

 IPバックボーンネットワークのプロトコルスタックの進化を説明する(7),(8).90年代中ごろにはIP/ATMはIPを支える唯一のハードウェア技術であり,QoSやトラヒック管理をサポートのメカニズムを実現する手段としてIP over ATM技術が世界的に導入された.更にWDMが導入され600(Mbit/s),2.5(Gbit/s)へと高速化されるとATMが高速化のネックになり始め,IP over SDH/SONET/WDMが用いられるようになった.更に現在ではATMで実現されていたトラヒックエンジニアリングのパス機能を光レイヤ技術で実現するフォトニックMPLSが検討されるに至っている.トラヒックエンジニアリングとは,トラヒックに帯域,あるいは波長を効率よく割り当てる技術である.将来的には最小のデータ粒度であるIPパケットのルーチングを光レイヤで行うIP over Photonic ネットワークへ進化するシナリオが考えられる(4)

 2.3 ノードの低消費電力と小型化

 トラヒックの増加とともにノードに設置されるルータとクロスコネクトスイッチの装置の規模も拡大し,やがてその消費電力とサイズが問題になるであろう.図1はトラヒックが2000年の伸びに対してR倍で増え続けたときのノードの消費電力/サイズの増加を予測している(9).装置類は電気ルータ及び電気クロスコネクトスイッチを仮定している.トラヒックの伸びはこれまでの4倍のペースで伸び続けると,2005年にはノードの消費電力/サイズは約100倍になることが分かる.表1は光クロスコネクトスイッチを導入した場合のノードの消費電力とサイズと比較して結果を示している.10(Gbit/s)では,消費電力及びサイズともに1/3以下になっており,近い将来のノードの光化は必須といえるだろう.


図1 ノードの消費電力とサイズの年次推移    

 

表1 ノードの消費電力とサイズ  電気クロスコネクトスイッチと光クロスコネクトの比較

 

 2.4 当面のソリューションとその問題点

 IPパケット単位のルーチングを光領域で行う,いわゆるフォトニックパケットスイッチングがいまだ難しい現段階においては,ソリューションはフォトニックMPLS(Multi-Protocol Label Switching)である.MPLSの元々のねらいは回線交換の概念をパケットスイッチングネットワークに持ち込むことによって,IPと高速スイッチング技術を統合化し,広域のバックボーンネットワークを実現しようとするものである.フォトニックMPLSは波長という光パスを回線として用いる回線交換と考えるのがわかり易いであろう.フォトディテクMPLSでは,同一の目的ノードへ転送されるパケットを集合したストリームを同じ波長に乗せ,中間ノードでは簡単なラベル照合によるフォワーディングのみを行い,目的ノードまで転送する.この波長がラベルの役割を果たすのである.ノードを構成する主な装置は,WDM-MUX/DEMUXと光クロスコネクトスイッチとIPルータである.

 MPLS及びフォトニックMPLSについては本特集の4-1及び4-2の記事に詳しく述べられているのでここでは省略するが,フォトニックMPLSの最大の利点は三つある.
 ・ トラヒックエンジニアリングが可能
 ・ カットスルーによるルータの負荷の軽減
 ・ 最小遅延のフォワーディング

 しかしながら,MPLSを導入することによって,以下のような問題が発生することも知っておかなければならない(10)
 ・ 実トラヒックパターンに応じて動的に最適な波長パスを割り当てることが難しい.
 ・ 波長粒度のパスを使用するために帯域の利用効率が低い.
 ・ 同一パス上の異なるフローをマージすると分離が困難である.
 ・ 波長リソースが十分ではない(11)



2/6


| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.