■2. フォトニックネットワークの展開


 これまではポイントツーポイント伝送への波長多重伝送(WDM: Wavelength Division Multiplexing)の導入を中心として,伝送容量の拡大が進められてきた.図1に示されるように,波長多重伝送はインターネットの急激な伸びに対応する上では非常に有効であり,基幹伝送系のこれまでの急速な容量拡大を支えてきた.現在も,チャネル容量の拡大(2.5Gbit/s→10Gbit/s→40Gbit/s)と使用波長帯域(Cバンド,Lバンド更にはSバンドへ)の拡大が進められている.波長多重では伝送路(光ファイバと光増幅器)を複数のチャネルで共用することにより,大幅な伝送コストの削減を達成してきた.波長多重数の増大に伴い,一つの波長帯を使い尽くすようなシステムが導入され,更には例えばC, L両バンドを用いたシステムの導入も始まっている.現状の波長多重伝送方式では,一つの波長域に一つの光増幅器を使用する.例えばCバンドから波長多重伝送の導入を始めた場合,Lバンド更にはSバンドを追加することによるコストメリットは,光ファイバの共用によるもののみが残ることになる.したがって,多バンドを使用するシステムを考える場合には,多バンド化に伴う劣化要因や新たなコンポーネントを付加する必要性を加味した上でそのコストメリットを議論することが必要である.トラヒックの着実な伸びにより,システムで必要とされる伝送容量は,現行のWDM技術による限界(3〜4Tbit/s)に近づきつつある.次世代ネットワークの構築にあたっては,大容量化のみに頼ることなく,効率的なネットワーク構築に向けて新しい視点を導入していくことが必要になってきている.

 

1 波長多重による伝送システム構成の簡略化と伝送容量の拡大
波長多重では光増幅器と光ファイバを複数のチャネルで共用することで伝送コストの削減を実現してきた.最近,光増幅器の帯域を使い尽くすシステムが登場するようになり,伝送コストの低減効果が小さくなるとともに,総伝送容量の増大にも限界が見え始めている.

 

 WDM伝送を前提とした場合,効率的でコストパフォーマンスの高いネットワークを構築するためには,光レベルでのカットスルーを生かしたネットワーク構成とノードの効率化を検討するのが有効である.ネットワーク全体で見たときに一つのノードで処理すべき信号は,そのノードを通過する信号の3割程度との見積りもある.その場合,そのノードに無関係な信号は光のままカットスルーすることでノードの構成をシンプルにし,ネットワークの構築コストを低減することが考えられる.これを実現するためには,低損失な光ノード(光ADMあるいは光クロスコネクト)の実現と長距離伝送技術の確立が必要である.

 ネットワーク全体での効率化に向けては,ポイントツーポイント伝送からリングネットワーク更にはメッシュネットワークへの展開が考えられている(1),(2).障害回復に対応するための予備経路を最小限に抑え,効率的にネットワークを構築するという視点からメッシュネットワークへの展開が注目されている.メッシュネットワークを構築するにあたっては,光クロスコネクトノードをどのように構築していくかが重要なポイントになる.容量増に柔軟に対応可能なノード構成の設計が,前記した光でのカットスルーの議論と合わせ重要になってくる.更にはトラヒックがデータ中心になるのに合わせ,IPとの連携をどのように進めるかも今後の大きな課題である.

 ネットワークでの障害回復,更には新しいネットワークサービスの進展に向けては,ネットワークの管理・制御プレーン技術が重要になる.特に,ユーザからの回線開設要求や帯域増減の要求にタイムリーにこたえるFast ProvisioningやBandwidth on Demandを実現することが,ネットワークサービスの価値を高める上で重要である.ネットワーク管理システム(NMS: Network Management System)を中心とした集中管理とGMPLS (Generalized Multi Protocol Label Switching) を中心とした分散制御プレーン技術がうまく機能分担することで,早期に新しいサービスが実現されることを期待したい.特に今後の展開を考える上では,波長ベースのネットワークサービスを可能にするネットワーク構成とその制御技術の確立が重要である.長期的には波長のダイナミックな利用を視野に入れていくことも必要である.

 以上に述べたフォトニックネットワーク構築へ向けた展開を,個別要素技術の視点からまとめると表1のようになる.

 

表1 フォトニックネットワークを支える個別要素技術の展開



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