電子情報通信学会誌

Vol.86 No.4 pp.230-233
2003年4月

宮坂道弘 富士通株式会社法務知的財産権本部

Business Model Patent.By Michihiro MIYASAKA, Nonmember(Fujitsu Limited, Kawasaki-shi, 211-8588 Japan).


ビジネスモデル特許 宮坂 道弘


■1. は じ め に

 1999年ごろ急激に注目を浴びたビジネスモデル特許について,その端緒及び日本,米国,欧州の特許庁の対応について解説を行う.図1に,ビジネスモデル特許に関する主な出来事を示した.


図1 ビジネスモデル特許に関する主な出来事


図1 ビジネスモデル特許に関する主な出来事



 ビジネスモデル特許の端緒は,1998年7月,米国の連邦巡回控訴裁判所(ステートストリートバンク事件)において,ビジネス方法に関連した発明であっても,一定の条件を満たせば特許性を有するとした判決である,といわれている.

 図2は,日本特許庁,米国特許庁へのビジネスモデル特許出願件数の年推移を示したものである.インターネットの普及とネットビジネスの拡大にしたがってビジネスモデル特許の件数が増加している米国と比較して,日本は2000年に急激に増加した.1999年までは年間3,150件であったものが2000年には年間15,000件と,5倍も増加している.


図2 ビジネスモデル特許の出願件数
  日本特許出願件数は,2001年3月15日 日本経済新聞朝刊より
  米国特許出願件数は,米国特許庁ウェブサイトより

図2 ビジネスモデル特許の出願件数


 1999年後半より2000年にかけて,ビジネスモデル特許に関する記事が非常に多く掲載された.その中の最も印象的なものの一つとして,「日経コンピュータ」1999年9月号の特集「ビジネスモデル特許の衝撃」が挙げられる.この記事には,「“儲ける仕組み”が特許になる時代」,「米国から,新たな“黒船”が襲来した」,「技術面では新規性がなかったり,当たり前のように思えるサービスや手法でも,そこに新たな“アイデア”があれば,特許が与えられるのだ」,「ビジネスモデル特許がカバーする範囲は,一部のソフトウェアや情報システムに限られていた技術的な特許よりも,格段に広い」という興味深い内容が記述されていた.

 そして,1999年10月から12月の間に,3件のビジネスモデル特許の侵害事件が相次いで起きた.1999年10月,インターネット上での航空機,ホテルの予約の仲介ビジネスをしているプライスライン社が,マイクロソフト社,エクスペディア社を,逆オークション特許と呼ばれる特許(米国特許第5794207号)の特許侵害で提訴した.1999年11月には,書籍のインターネット販売をビジネスとしているアマゾンドットコム社が,ワン・クリック特許と呼ばれる特許(米国特許第5960411号)について,バーンズアンドノーブル社を特許侵害で訴えた.1999年12月には,特許ライセンス交渉・販売交渉を専門とするSBH社が,ユニバーサル・ショッピングカート特許と呼ばれる特許(米国特許第5895454号)について,ヤフー社を特許権侵害で訴えた.

 このような特許侵害事件により,更にビジネスモデル特許への関心が高まった.



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