このような極限的なパルスの産業応用は非常に幅広く,フェムト秒レーザ技術の発展とともに急速な発展を遂げている.図1に時間・空間・周波数を軸に取りフェムト秒レーザの産業応用の概略を示す.そのうち本特集号では以下の三つの項目について述べる.


図1 フェトム秒テクノロジーの産業応用

図1 フェムト秒テクノロジーの産業応用

 まず,次世代フォトニックネットワークに関してはフェムト秒パルスの時間領域での応用であり,超短パルスを使った高速伝送技術について述べる.最近の欧米の国際会議ではWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長多重)からTDM(Time Division Multiplexing:時分割多重)への大きな流れが感じられる.特に各種高速基盤技術に関する報告が多い.この分野に関してはフェムト秒パルスを用いたテラビットOTDM伝送,超高速フォトニックネットワーク用デバイス技術,全光スイッチについて述べる.特に最近話題になっているのは波長1.5 のISBT(Intersubband Transition)変調器や,半導体型SMZ(Symmetric Mach Zehnder)スイッチである.これらは日本発のオリジナル技術であり,今後の発展も含めて興味深いものである.

 次にフェムト秒光源に関しては,周波数応用として相対論的電子ビームとフェムト秒パルスを衝突させ,逆コンプトン散乱効果により高輝度の超短X線パルスを発生させる技術について述べる.ここではフェムト秒レーザのジッタを大幅に抑制することにより高精度な同期技術を新たに確立している.この技術はX線パルスを利用した動作状態でのタービンブレードの非破壊検査・医療応用など,応用は幅広い.また,超高速の通信には超短パルスの発生とその圧縮・波形整形技術が重要であるが,パルス光源としてモノリシック型の超高速モード同期半導体レーザ及び半導体結合導波路を用いた圧縮デバイスについて述べる.

 最後に大きな分野としてフェムト秒パルスの加工・計測について紹介する.フェムト秒レーザビームを集光することにより,比較的小さいパワーでも非線形光学効果が発生できることを利用して,ナノスケールの三次元微細構造形成,2光子吸収した細胞からの応答を観測することによる生命現象の解析について述べる.また,物質の電気感受率の時間応答をフェムト秒領域で測定することによりその物質の高速性や性質を評価する分野も,1999年度のノーベル化学賞(A.H. Zewail, Caltech.)を受賞するなど,大きく進展している.ここではフェムト秒パルスと物質との相互作用による発光・吸収・散乱のスペクトルの各種分光法について紹介する.また,フェムト秒パルスの構成する数多くの縦モードを巧みに利用して,モード間のビート周波数から10-8 の精度で距離計測が可能になる新技術について紹介する.

 この特集号では紙面の関係で含まれてはいないが,図1に示すようにTHz発生並びに周波数標準・計測にも大きな進展があり,世界中でホットな研究が続いている.例えば,従来は波長300 程度の電磁波を発生させることは非常に難しかったが,フェムト秒レーザパルスをGaAsなどに照射して変位電流をピコ秒のオーダで発生させ,そのフーリエ成分がTHzに対応することからTHzを効率良く発生させることができる.この手法によりTHz応用も大きく進んでいる.また,光周波数標準に関しては,フェムト秒レーザパルスをフォトニック結晶ファイバに通過させることでそのスペクトル幅を大幅に広げ,その縦モード間隔を光の物差しとして使う手法が開発されており,光の周波数計測が極めて簡単になりつつある.

 以上のようにフェムト秒パルスを利用する様々な技術はITバブルの真っただ中にあるにもかかわらず世界中で熱い研究競争・産業化競争が起っている.この小特集号を御覧頂き,最近のこの分野の先端技術を御理解頂くとともに,読者にフェムト秒パルスの新たな応用が一つでも芽生えれば幸せである.



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