■2. 中心軸と人の視知覚

 この10年の間に,図地分節の機能にかかわる重要な科学的発見が報告されている.Kovacs, Feher & Julesz(5)は,図形の中心軸近傍で人の輝度コントラスト感度が高くなることを発見した.そこでは,例えば,図1 A2の人の形(緑の輪かくからなる形)を持った形態では,中心の黒いシェーデイング部分(中心軸部分)でコントラスト輝度感度が高くなることが示されている.

 視覚体験の少ない人,例えば子供は,棒状の絵を描く傾向を持っているが,これは,中心軸の検出機構の関与を示唆するものである.Blum(6)は,中心軸から導出できる位相構造ベクトルによってパターンの分類を行い,中心軸の有用性を示している.

 Lee, Mumford, Romero & Lamme(7)は,中心軸に選択的に反応する細胞がサルのV1領野の単純細胞の中に存在することを見いだしている.これは中心軸が図地分節に重要な役割を果たす可能性があることを示唆するものである.

 中心軸変換の概念を理解するためには,ある形の輪かくを草原に描き,その輪かくに火をつけるときに起る状況を想像すればよい.例えば,同時に二つの地点で点火された火は,最終的には,最初の2点から等距離にある線(中心軸)で出会い,そこで止まることになる.人の形を持った輪かく部で点火された火は,中心部に燃え広がり,中心軸に相当する点で止まることになる.筆者らはBlumの中心軸変化を改良したHST(Hybrid Symmetry Transform)(用語) 法を用いて,このような中心軸を求めた(8),(9).中心軸を求めるには,まずイメージのそれぞれの部分で,輪かくに接する同心円(図1 C1参照)を探索する作業が行われる.この作業によって,広い部分で輪かくに接する(または囲む)円環が探索され,探索された円環が中心軸を決める機能を持つ.円環の寄与の大きさは,シャンティング抵抗回路網(図1 C2参照)の抑制的相互作用によって決められる.この考え方は,Meadのモデル(10)に基づいている.筆者らのモデルは,すべての可能な中心軸に関して重畳する機能を持っている.この統合機能はシャンティング係数(用語)の大きさに依存する.図1のB2は,ノイズのある対象に対して,統合機能がいかに有効に働くかを示したものである.

図1
 
A1 2点に対する中心軸は,円が,火が燃え広がるようにだんだん大きくなるとき,2円が出会う場所として表される.A2 人の形状をした輪かく(緑線部)の中心軸変換(内部の黒い部分).A3 Blumは,輪かくのより多くの部分に内接する最大円によって中心軸を求めることができることを示した.B1 三葉形状(緑線部)の中心軸(内部の黒い部分) B2 三葉形状の内部に多数のノイズが点在するときは,厳密な中心軸変化では,局所的な中心軸しか求められない.B3 筆者らが開発したHSTを用いれば,抗ノイズ性が高く,ノイズがあっても,B1のBlum(6)の中心軸変化と同じ結果を得ることができる.C1 位置(m, n)のHSTは,輪かく線の形状を一連の同心円環で走査することで求められる.図形の輪かく局所的曲率の中心は,同心円の中心と一致する.ノイズが与える効果は,輪かく線の与える効果より小さい.C2 Carver Meadの方法(10)にならって,走査値は,繰返し法を用いて,シャンティング抵抗回路網に似た方法によって統合される.S mnk は同心円走査を加算したものであり,HSTmnk は場所(m, n)で計算されたハイブリッド対称軸変換値である.係数k は,0からLまでの値である.Lは,同心円の個数である.シャンティングは,小さい同心円が,大きな同心円の効果を消し去る機能を果たす.シャンティング係数のどの値に対しても,ノイズ(黄色スポット)は,輪かく部(緑部)の与える効果に比べ,弱いシャンティング効果を与える.結果として,ノイズの与える影響はほとんどない.このようにして,ノイズ効果を除去できる方法を実現した.


2/6

| TOP | Menu |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.