■2. COE(卓越した研究教育拠点)の性格

 したがってこのプログラムは大学のランキングではないが,ある学問分野を想定した場合には,「あの大学に何々先生率いるこういう優秀な研究グループが存在している」ということを明示的に示すものでなければならない.これが「COE」の基本的な考えである.そしてある大学がそういったCOEをたくさん持っていれば,当然大学としても当該学問分野では優れた大学であることが分かる.旧帝大のように多くの優れた研究者を抱え得る総合大学ではCOEをいろいろな分野に複数持とうとする政策も取れるだろうが,それ以外の多くの大学ではむしろ大学の方針としてある特定の分野に優れた研究者を集めその分野で世界のトップになろうという戦略を採用することが望まれる.したがってこのCOEプログラムの第一の目的は「個性あふれる大学つくり」を研究支援の面から促進するものであるということができる.更に,教育に専念する大学はこのようなCOEプログラムには応募しないという見識があってもよいわけで,私がかねてから主張している大学の種別化促進にも効果がある.その代りユニークな教育を行い学生の個性を伸ばすような教育に挑戦している大学は別途教育重点大学として予算措置して教育重点大学の個性化を支援する必要がある.このような主張はすぐ文科省が取り上げ,既にCOEプログラムの教育版も発足した.

 科研費やその他の大型の公募型プロジェクト研究と違って,COEはそのカバーする学問分野が明確になっていること,そしてその分野が将来的には体系化され,一つのパラダイムを形成し,そこで訓練を受けた研究者が次世代を担う人材に育つことが期待される.他の多くのプロジェクト研究では,優秀な研究者を集め,テーマを分担して研究を行い,そのミッションが終了した後には元のさやに戻るというものが多いが,COEではその組織が大学院の新たな組織(専攻など)として存続するものであることが期待される.このようなプログラムは活用次第では大学改革に大いに役立つ.大学の経営者は戦略を立てねばならないが,その際このCOEプログラムを有効に利用して戦略を実行に移すことができる.だからプログラムの審査では大学全体の将来構想も重要視される.この種の審査には珍しく,大学の学長あるいは権限委譲された者が大学の将来構想をプレゼンテーションし,その構想の中での当該センターの位置付けと大学としての支援体制について述べることになっている.実際,学長が強いリーダーシップを持って計画を立てたと思われるものと,従来の研究費公募と同じように研究者が主体となって計画を立ててきたと思われるものの間には歴然とした差が見て取れる.


■3. C O E の 活 用

 各COEがそのカバーする学問分野を明確に示すことは文科省の研究政策にも大いに役立つと思われる.すなわちこれから重要となる分野がこれらのCOEでうまくカバーされているか否か,もし重要と思われる分野のCOEが欠落していれば新たに拠点を作る必要があるだろう.またそれらの拠点を各分野ごとに国際比較すれば我が国の大学における研究水準が分かる.また重点的に分野を育成しようと思えばその分野のCOEを増やすことも可能だろうし,既存の優秀な分野を更に強化することもできる.今まではこのような研究を目に見える形で戦略的に配分することは事実上不可能であったが,もしうまくこのCOEプログラムが機能すれば予算の戦略的配分が可能となり,限られた資源の有効利用が図られる.研究者にとっても,自分の分野のCOEがある大学で研究がより良く遂行できれば,そこへ移動したいというインセンティブが働くだろう.また大学の経営者もそういう優秀な研究者を獲得したくなるだろう.研究者のモビリティが向上するとともに,願わくばインブリーディングが解消されるかもしれない.旧帝大のような大きな総合大学ではすべての分野にCOEを持ちたいという傾向があるかもしれないが,世界水準で比較されればそういうことは不可能であると気が付くに違いない.また小さな私立大学でも学長が強いリーダーシップを持ってある分野で優れた研究教育拠点を作り,それを軸に大学の生き残り作戦を図りたければ,このプログラムを利用すればよい.このように,このプログラムは従来の公募型研究とは全く異なった性格のものである.ちなみに,ここで支給される予算は研究を遂行するには誠に少額すぎるが,これは研究を直接進めるためのものではなく,研究を遂行するに必要なインフラの整備とか博士課程の学生の奨学などに使えるものである.



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