■5. 技術の発達の影響と標準の近未来の課題 空間情報の獲得・収集のための諸技術,大量のデータの蓄積・移動・交換のための諸技術も急速に進歩している.測量・計測の精度の向上も目覚ましい.本稿はそのような個別技術について論ずる場ではないので,代表的な関連技術で進歩の目覚ましいものを無作為に選んで名前だけを挙げてみる.
上に挙げたもの以外にも多くのものがあるであろうが,このような“新技術”が,空間情報の標準化に無関係であるはずがない.それらをどのようなタイミングでどのような形で取り上げるべきか,関係者は常に注意し続けていなければならない.
「空間データ(基盤)とは電子化された地図のようなものである」とよくいわれるし,筆者も面倒なときにはそのような言い方をすることがあるが,上に述べてきたISO/TC211や地理情報標準の考え方は,“地図”特に“紙地図”の概念から根本的に脱却することを我々に要求するものになっていることに注目しなければならない.そこでは,空間情報は幾つもの“オブジェクト”(といえば何かが分かるというようなものでもないが)の属性とオブジェクトの間の関係を述べたものとしてとらえられている.“測量”や“地図化”の技術の伝統の中では,“縮尺”がそこに盛られている情報の精度,品質のすべてを決定していた.それに対して新しい標準においては,(a)各オブジェクト,各地物ごとに固有の精度,品質,新鮮度等々が付随しているだけで,データ全体にわたる縮尺のような概念はない.もちろん(b)二次元的に(紙の上に,あるいはディスプレイ上に)データ(の一部)を表示する表示し方を定める,あるいは表示し方を記述する方法についての規定はある.この前者(a)の観点を強調して,今や「紙地図よさようなら」の時代なのだという標語を声高に唱えるのも有意義であろう.もっとも,我々が情報を目で見るときには結局は後者(b)のような表現によらざるを得ないという点を強調して,「しかし,紙地図は永遠である」と唱えることもできる(ここで,空間データは,元データを単に目で見るだけでなく,各種の加工・処理を加えてデータに内在するより高度な意味の分析を行い迅速な判断に容易につなげられるという点も,その大きな特長であることを忘れてはならない). |
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