電子情報通信学会誌 Vol.87 No.3 pp.207-214 2004年3月 |
小泉英明 牧 敦 山本 剛 山本由香里 川口英夫 (株)日立製作所基礎研究所 |
Hideaki KOIZUMI, Atsushi MAKI, Tsuyoshi YAMAMOTO, Yukari YAMA-MOTO, and Hideo KAWAGUCHI, Nonmembers (Advanced Research Laboratory, Hitachi, Ltd., Saitama-shi, 350-0395 Japan). |
デカルトは「考える,故に我あり」といった.「考える」のは私たちの脳である.その生きた脳の解剖学的形態と,精神活動を含む高次脳機能を可視化する方法論を述べる.安全に脳機能を調べることができる無侵襲高次脳機能イメージング法の出現によって,脳神経科学の分野でもパラダイムシフトが起きている.高次脳機能を計測する方法論の原点について述べ,更に,最近になって広範な応用が注目されている近赤外光トポグラフィーを中心に紹介する. ■1. は じ め に 脳は比較的均質な組織からなっている.信号伝達・処理を担う神経細胞,エネルギーを供給する血管,そして構造保持並びに神経・血管の仲立ちをするグリア細胞が基本的な構成要素である.脳の高度かつ複雑な情報処理は,1,000億以上といわれる神経細胞と,一つの神経細胞当り数千といわれる結合部(シナプス)から構成される神経回路網に負うところが大きい.膨大な接続によって構成される複雑系である.しかし,従来の脳神経科学は動物実験が主体で,個々の神経細胞に電極を指して観察する電気生理学が主流であった.この要素還元的なアプローチも重要であるが,近年,脳活動を概観する俯瞰統合的なアプローチが盛んになってきた.これは,1990年代初頭から無侵襲高次脳機能計測法が台頭し,生きたままの人間の脳活動を計測できるようになってきたことにもよる.今,脳科学は大きなパラダイムシフトを迎えようとしている. |
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