Q
5:ラットの実験などの短期間の観察で「証拠がない」として否定されると,がんのような長期的な影響については,すべての報告が否定されることにならないか.


A:
関係者の意見は次のとおり(2). 「ラットの寿命は2〜3年と考えて,ラットでの2年間の実験は,いわば人の10年くらいは十分に観察していることになる.放射線発がんの実験でも,潜伏期を考慮してマウスの寿命の期間を観察して人に外挿したりする.これが100%正しいか,といわれると返答に困るが,現時点では,動物実験ができる長期観察しか方法がない,または最良の方法だと考えるべきである.動物実験だけでなく,人の疫学や細胞実験も含めた総合的な判断を行っているわけであるので,一つの結果であれこれいうことも適当ではないだろう」.



Q
6:刺激作用,熱作用が起きる周波数範囲と,これを防ぐための限度値を定める根拠とした基本制限量は何か知りたい.


A:
その周波数範囲と,根拠とする基本制限量についてのICNIRP1998指針の記述を,表の形にまとめた(表2).商用周波での電撃の関係は表から除いた.


表2 電磁界の作用・影響及び基本制御量(文献(1)より作成)

*携帯電話では局所SARも重要(Q13参照)




 刺激作用による主な影響は中枢神経系の興奮性の変化であり,およそ1Hz〜10MHzで現われる.防護のための基本制限量は電流密度.外部磁界による人への誘導電流密度が4Hz〜1kHzでは1μA/cm2を,また1kHz以上においては f /1,000(μA/cm2)を超えないようにする( f は周波数で単位はHz).周波数が低くなると人体での誘導電流密度が減ることによって,また周波数が高くなると人体組織の電流応答性が減ることによって,刺激作用の影響は減少する.

 熱作用の結果としておよそ100kHz〜10GHzで現われるのは全身的熱ストレス及び過度な局所加熱.防護のための基本制限量は全身平均SARといわれる量(Q8参照).電磁界により生じる全身平均SARが0.4W/kgを超えないようにする.周波数が低くなると発熱量が減ることによって,また周波数が高くなると表皮作用のため体内電流は体表近くに集まって流れることによって,体内での熱作用の影響は減少する.熱作用の結果のうち10〜300GHzで現われるのは体表近くの加熱であるので,防護のためにはばく露電力密度を抑える.

 以上の電流密度の限度値1μA/cm2及び全身平均SARの限度値0.4W/kgは職業人に対するもの.一般人に対しては安全係数5として,それぞれ0.2μA/cm2,0.08W/kgと定める.これらの基本制御量から逆算された電界強度,磁界強度あるいは磁束密度が,それぞれの限度値となっているわけである.



Q
7:刺激作用による人体誘導電流の電流密度限度値を職業人の場合に 1μA/cm2 とした根拠は?


A:
生体組織に電流が流れたときには神経や筋肉の興奮性細胞が刺激を受け,電流密度の大きさにより様々な生物学的影響(生体影響)が生じる.各種の生体影響が現われる電流密度の最低値(しきい値,それ以下では影響が生じないが,その値を超えると突如として影響が生じる)は周波数により異なる.WHOは,これを表3のように整理している(3).なお人体には元々自然に流れている電流(内因性電流)があり,その大きさは脳では0.1μA/cm2 以下の程度,心臓では1μA/cm2 以下の程度であると述べている.

 表3により,誘導電流密度が0.1μA/cm2 以下ならば影響はないが,外部磁界が大きく誘導電流密度が10μA/cm2 を超えるときは中枢神経系興奮の急性変化及び視覚誘発電位の反転などの急性影響が生じる.100μA/cm2 を超えると心臓の期外収縮などの健康影響が生じる.

 この中枢神経系興奮の急性変化などを避けるために,誘導電流密度が職業人では安全係数を10として1μA/cm2,一般人ではその5分の1の0.2μA/cm2を超えないように,磁束密度の限度値が定められた.

表3 ELF電流密度(3〜300Hz)と生物的影響(3)
電流密度(μA/cm3
影  響
0.1以下

0.1〜1

1〜10



10〜100

100以下

影響ない

小さい影響が報告されている

視覚的影響(磁気せん光)及び神経系への
影響,骨折部の再結合を促進することが報
告されている

中枢神経系の興奮性の変化

期外収縮,心室細動の可能性


 

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