The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会によるさまざまな“場”の提供へ,

編集理事,小林功郎

 先ごろ,ジュネーブで4年ごとに開かれる,通信関連のいわばオリンピックとも いうべき,テレコムを見る機会があった.世界中の通信キャリア,メーカに加え, パソコンの OS/ソフト,コンテンツ関連の企業までが一同に会して,将来展望を競 う大きな場面が出現していた.VOD(ビデオオンデマンド)はもとより,遠隔学習, 遠隔会議,遠隔医療,データベースアクセス,……などなど,既に実現しているも のから将来の実現形態まで,距離と時間を克服し,個々人の生産性を上げ,生活を 豊かにするための,いわゆるマルチメディアとひとくくりにされるさまざまなサー ビス候補を前面にみせながら,それらの実現を支える,通信/エレクトロニクス/情 報技術などをアピールしていた.これらはほとんどすべて,電子情報通信学会のカ バーする範囲であろう.この意味で,電子情報通信学会が,21 世紀に向けて,大き くいえば人類の発展に寄与する,広く重要な技術やビジネスの領域にかかわってい ることを実感した.

 このような状況のもとで,学会のもつ意味についてあらためて考えてみた.小生 の経験で恐縮であるが,1980 年前後の 10 年ほど,半導体レーザの研究開発に携 わっていた.半導体レーザは,国際的な競争の中で日本が,研究開発から生産,装置 ・システムへの応用/実用化まで,うまくやれた一つの例ではないかと思われる.こ の研究開発から実用化の各段階で,電子情報通信学会が果たした役割は極めて大き い.当時,国内では産官学合わせて 10 数研究機関が,半導体レーザの研究開発に しのぎを削っていた.今からみれば残らなかった技術も含めて瞬間的な優劣に一喜 一憂しながら,望ましい方向を目指して大勢の人々が日夜努力をしていた.このよ うな状態のとき,わずかなヒントが大きな展開のきっかけをもたらしたり,あるい は方向を転換するきっかけとなったりする.公式,非公式を併せて,学会が情報交 流という点で果たした役割は極めて大きいものがあったように思う.高い山には広 いすそ野がある.研究会,全国大会,会誌,論文誌ほかのさまざまな活動を通じて 学会が提供した“場”により実現した広いすそ野が,高い山を,それも一つではな く,いくつものいろいろな形をした高い山を実現した大きな要素であったように思う.

 ソサイエティ制という新しい枠組みがスタートした.従来よりも自由に素速く, さまざまな“場”を提供するというのが,新しい枠組みのねらいの一つと思われる. 場を作るのも,場を活用するのも,会員である.これまで以上の活発な参加を期待し たい.


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