The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


20年前と違うところ

調査理事 伊藤隆司

 昨年末に議員立法によって『科学技術基本法』が成立し,日本が目指す科学 技術立国へ向けてさまざまな施策が打ち出され始めました。エネルギーや環境 問題あるいは多様な文化間の摩擦を背景にした新たな社会秩序の構築が世界的 規模で進展していく中で,日本の経済社会構造を持続発展的なものにしていく ために,産・官・学の総力結集が不可欠であることが根底になっています。

 電子産業において米国は,1980年代に国際競争力をなくした商品の海外 生産シフトを進めました。当初は製造業の空洞化と懸念されましたが,半導体 製造業とソフト等の高付加価値分野の躍進を見事に果たしました。日本にとっ ても国際競争力強化が緊急の課題となっており,高付加価値産業への転換や新 産業・新市場の創造が必要とされています。

 ところで,現在の状況は私が入社した20年前のオイルショック後とでいく つかの類似点が指摘できそうです。ARPAネットの成功による情報ネットワ ークの急進と現在のインターネット,コンピュータの完全自由化とパソコンの 普及,電卓の香港生産シフトとパソコンの台湾生産委託,IBMのFSが切っ 掛けとなった超LSI国家プロジェクト発足とこれから始まろうとしている各 種の国家プロジェクトなどです。また,社会でも今と同じように工学技術の放 任の反省,旧来の宗教・倫理の説得力低下,人工・食料・資源などが問題とさ れました。これらを乗り越えるために協調されたのが創造性の発揮とマーケッ トオリエンテッドな商品開発でした。

 現在でも,研究者・技術者の創造性を高め,研究開発の効率を上げていくこ とが最重要課題であることは間違いありません。具体的な方策を20年前のア ナロジーで考えるわけにはいきませんが,当時よりはるかに日本の優位性が増 している点があります。それは,豊富な人材とこれまでに培った非常に幅広い 基盤技術,そして多くの専門家の研究開発の蓄積です。それらを有効に活用す ること,すなわち従来からいわれている異なった専門分野の融合にとどまらず ,今まで交流の少なかった基礎的な研究部門と量産工場,大学と企業,材料と システム,更には経験豊富な幹部社員と若手技術者等の対局にあるような組織 あるいは人達の連携によって新しい方向を模索し,差異化を図っていくことが これからの日本の技術戦略の一つになると思われます。そのしかけが必要にな っています。


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