The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


新世界における社会的存在

会長 辻井重男

 新年おめでとうございます.

 さて,この1年ばかり,OECD の暗号政策会議に出席しながら感じますこと は,電子情報世界という人類未踏の新世界構築へ向けての我が国民の意識の低 さです.新年にふさわしい表現ではありませんが,このままでは,日本は情報 文化力の面で後進国となり,「これからは皆で仲良く貧乏していこうね」と言 うことになりかねないという気すらしております. 最近まで,我が国は,米 国の核の傘の下で物的生産に励んできましたが,核の傘に代って情報の傘とな ると,大分様子が違うことを認識しなければなりません.我が国の世論は余り 関心を示しておりませんが,米国は世界情報政策の一環として,大統領の任命 による暗号特使というポストを設け,国際交渉を始めようとしております.

 舌足らずな説明のまま,論理を飛躍させて申し訳ありませんが,情報通信ネッ トワークの地球的規模での広がりは,文明の構造を変革し,文化の概念を変容 させつつあります.このような新しい世界における学術的基盤機関としての本 学会の社会的責任が極めて大きいということはいうまでもありません.

 これまで,本学会は,比較的内向きに会員同士切磋琢磨して,先端的学術情 報を発信し,人的交流を深めてきました.ソサイエティ制の導入によって,こ のような活動はいよいよ盛んになるものと期待できます.本来,学会というも のはそれで十分だったのかもしれません.しかし,これからは我々も目を広く 社会に向ける必要があるように思います.

 本学会の 1996年6月号で述べましたように,私は,これからの本学会の課 題として,電子化,国際化と並んで社会化を挙げ,これらを合わせてオープン 化を一つのキーワードとしてはどうかと提案致しました.

 特に社会化については,小・中・高校生,市民などへの知識の普及,金融, 流通業やベンチャ企業等多様な業界との交流,人文・社会科学との学際的交流・ 融合や,ジャーナリズム等への積極的な広報活動など取り組むことが多いよう に思われます.また,学会の国際的活動等に対する政府・行政面からの公的支 援拡大へ向けての要請,あるいは,昨年策定されました科学技術基本計画に対 する学術会議などを通しての対応等も考えていくべきでしょう.

 常に,長期的・国際的視野と大局観をもって,学会の方向性を全会員が考え ていくべき時代ではないでしょうか.


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