The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


日本の科学技術政策はこれで良いのか

東京支部長 富永英義

 本学会がソサイエティ制に切り替って5年目に入る.

 金融のビックバンを迎えるにあたり,政治経済をはじめとして,日本のあら ゆる分野において,新しい時代の変化に対処するため,従来の体制を見直し, 抜本的な対策を打つ必要性がさけばれている.その多くの課題の所在はかなり 前から指摘され,またそのいくつかは具体的に対応策を練ってきてはいる.

 通信,放送,コンピュータ,出版,等が融合したマルチメディア産業の興隆 に期待し,情報通信産業の国際的な広がりをもった徹底した競争原理が導入さ れようとしている.この 10 年間は我が国の政策的な対応はカオスの状態にあっ た.この混沌状態からようやく抜け出す局面に入っているが,より一層の努力 が必要であり,ヨーロッパ連合(EU)や北米地域に比してかなりの遅れを余儀 なくしている.

 政府による科学技術振興策の必要性はいつの時代もさけばれてきているが, なぜか本質的な対策がなおざりになっている.老朽な研究施設や研究費の不足 に対処するために補正予算によって一時的に多額の予算が特定の機関についた りしている.大学や国立研究機関の研究施設は民間産業界のそれに比して見か けの差はほとんどないところもあるが,総体として大きな差がある.効果的な 振興策のために重点的に配分するのが目的であると聞く.

 しかし,この対応策は,我が国の経済と科学技術が後進国の時代に先進国に 追い着くためと同じではないだろうか.

 大学の研究環境はこの数年で大幅に改善されてきてはいるが,優秀な人材が 博士課程に残る数は欧米に比して極めて少ない.従来の日本の大学の役目は有 為な人材を社会に送り出すことにある.それらに人材が産業界に入ってから先 端的な研究開発を行ってきた.我が国の産業界の競争は激しく,それぞれの企 業で重複して多くの人材が,同じ研究課題に取り組んでいる.産業界での切磋 琢磨する研究開発競争は我が国の産業を世界一流のものにしたが,産業界によ る人材の無駄使いの様相も垣間見える.

 根本的な人材の育成の仕組みが欧米とは大きな違いがある.応用の広がりが 大きい先端的で基礎的な研究の成果は広く公開することが望ましいので,大学 等の中立的な機関に多くの人材を投入してきたのが欧米である.

 科学技術振興の原点は優秀な人材の確保にある.明治から今日に至る社会か らの大学に対する要請は日本人による,日本の社会のための,日本人を教育す ることにあった.しかし,経済,産業は国の境を越えて発展している.物と金 と情報はボーダレスになっているが人材の確保は欧米に比して鎖国しているか のようにみえる.我が国の科学技術がグローバルスタンダードに達していない とすれば人材交流の閉鎖性にあるかもしれない.

 本学会のソサイエティ制の導入は色々な課題のグローバルスタンダードを目 指したものであり,21 世紀に大きく飛躍するものと信ずる.


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