この約半年間,科学技術庁の研究振興局長の依頼で「ポスドクを含む若手研究 者」について議論をしてきた.主査の私にとって,我が国のヒトの問題を議論 することはつらく,果たして大学,国研の制度,組織,人事,企業の姿勢等に 山積するあらゆる問題が火を吹いたが,その結論の一つを今となっては自信を もって紹介する.
新しい環境へ対応するために,「研究者市場」をすみやかに形成すべきである.
かつては理系の「オーバードクター」救済策としてスタートした「ポスドク等 1万人計画」(出口論のない「失業対策」に工学系は反対,企業は無視)を調 査したところ,思わぬ大きな成果のあることが分かった.日本の研究開発シス テムに初めて競争原理が導入され,国立研究機関の活性化,研究者雇用方法の 変化と若手研究者のプロ意識の向上,女性研究者の活躍場の拡大(2割!), 更に研究者流動の国際化が進みつつあることであった.ただし悲しいかな,ポ スドクは「失業者」よろしく社会の中での位置付けは不安定であり,古色蒼然 としたテニュアの最下位ポストをねらっている.また,選考過程が不透明な 「日本流家元制度」への不満は彼らのインセンティブをそいでいる.
「研究者市場」では,研究者の価値は自由市場で決まり,評価は公平性を保ち, また優れたものが勝者となる.市場への参加者は,大学,国研はもとより,企 業の研究開発部門(ポスドクと流動研究者は,異分野に強い)と非研究開発部 門,ベンチュア,ファンディング機関,研究投資機関,特許,法務事務所も加 わる.もちろんグローバルな市場であり,研究者にとっては終身雇用を克服し たアリーナ(競技場)となる.大学,国研がだめでも,ルーザーにはならない (高校でルーザーといわれた仲間の方が今や人生の成功者という例が多いので は?).健全な参加者としては倒産と背中合わせの緊張感を持つ機関がよく, 国公立の機関はその点ではハンデを持つ.
会社経営の経験者としては,「市場至上主義」には正直いって危惧はある.し かし,21 世紀のグローバル競争に生き残るために日本の現状を変えていくと すれば,この選択を支援するしかなさそうだ.