The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


研究開発における産業界の役割

副会長 佐々木 元

 日本において技術立国が叫ばれて久しい.しかしながらグローバルな競争の 中で,将来の産業を支えていく研究開発の仕組みをいかに構築するかという課 題について,今なお解決を要する側面も残されているように思う.特に,ある 産業分野における共通的な技術インフラの研究開発を,個々の研究機関や企業 の個別的な活動を統合化して,共通の目的に対する方向付けを行うことの重要 性が,ますます高まっている.

 このような状況認識の下で,日本では半導体分野において,産業界がイニシ ヤティブを取る形での研究開発が推進されている.1994 年4月末に,日系半 導体メーカー 10 社によって,シンクタンクとしての半導体産業研究所 (SIRIJ)が設立され,半導体技術の発展促進,半導体産業の活性化などに関 する研究を行うこととなった.SIRIJ は半導体産業が自らの人材と資金をもっ て設立したところに,大きな意義があったと考えている.引き続き SIRIJ の 活動を通してなされた提言に基づき,1995 年 12 月には(株)半導体理工学セ ンター(STARC),翌年2月には(株)半導体先端テクノロジーズ(SELETE)が設 立された.いずれも,SIRIJ の設立にかかわった 10 社の出資によるものであ る.

 STARC は大学における半導体関連の研究助成と,それを通じての人材育成を 目標としたもので,一件当り年間 2,000 万円前後の研究費を継続的に3年程 度にわたり支援を行うことにより,思い切った研究が遂行できるような配慮を している.1999 年においては研究費総額は 6.5 億円,研究テーマ数は 30 件 前後の規模までに発展した.最近になって,産業界が自らこのような活動を行っ ていることが,官学産の各界に認知され,高い評価を得るに至った.

 一方 SELETE は,半導体先端技術の開発費が巨額になり,各社がその負担に 耐えられなくなりつつある現状の下で,直接の競争に影響を及ぼさない分野や, 将来技術でリスクの大きい分野での共同研究を行うもので,例えばシリコンの ウェーハ径が現在の 200 mm から 300 mm に大形化するのに関連して,半導体 製造装置の評価を共同で実施することで,大きな成果を得ている.年間の研究 費は 100 億円弱に達するが,装置メーカーや材料メーカーとの関係も含め, その活動の重要性はますます高まっている.

 このように産業界が自ら設立し,資金を拠出して運営に当っている組織を通 じて,研究開発の活性化を図ると同時に,大学で行われている基礎的な研究成 果を,実用化へ結びつける仕組みを作っていくことで,日本の将来に貢献でき れば,関係者の一人として幸いと思っている.

 (注) SIRIJ:Semiconductor Industry Research Institute Japan

    STARC:Semiconductor Technology Academic Research Center

    SELETE:Semiconductor Leading Edge Technologies, Inc.


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