The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


フェアネスとは

総務理事 鈴木滋彦

 "差異化なき平等は悪平等".これは,作家の池波彰一郎氏がインタビューに 応えて言った言葉で,仏典にも載っている言葉だそうである.努力,能力,貢 献度などに関係なく平等に扱うのは,悪平等であるという意味だと解釈する.

 戦後日本にはびこった,まちがった悪平等主義が,現在日本の国際競争力上 発生する様々な問題の一因となっていると思う.まちがったという意味は,本 来平等というのは機会に対して平等であるべきなのに,結果平等主義となって いることをいっている.すべての人,すべての組織には平等のチャンスがあり, その結果が不平等になるのは,努力,能力,運など様々な要因で発生するが, それは競争の結果であり仕方ないことと割り切るべきだと思う.ところが,日 本にはびこってきた結果平等主義は,例えば高校教育に関しては,平均レベル を上げることには貢献したかもしれないが,ずば抜けた人の出る可能性を小さ くしてきた.東京では,公立高校の学校レベルをできるだけ平等になるように した過去の政策により,どの学生も同じレベルの授業を受けるようになり,結 果は平等になった.その代り,それに満足のできない,もっと高いレベルの授 業を受ける能力のある学生は私学に進むしかなくなる.その結果,本人の能力 とは別な親の資産能力によってチャンスを得られるか否かが決まることになり, 機会に対しては不平等になる.こうして,あたら優秀な学生がインセンティブ をなくし不利益を被った数々の例を,教師や学生から聞いている.事を起す前 のチャンスは平等に与えられ,後は努力次第,本人次第で得るものが違うから こそインセンティブが湧く.

 翻って我々の学会はどうであろうか.学会加入についても,論文投稿につい ても少なくとも機会は平等であり,良い論文を書けば学会で認められ,表彰さ れる機会を得ることもできる.また,会員制度によって,会費が違えば受ける サービスに差がある.良い意味で,機会平等主義で運営されているといえる. しかし,これで十分かといえばまだ考えるべきことは多いと思う.ソサイエティ 制が導入され定着しつつあるが,ソサイエティ間の Activity の差によって生 まれる会員の得る差異は何か,あるいは各研究専門委員会の活動の差によって 生まれる会員の得る差異は何か.ボランティア中心の活動とはいえ,ソサイエ ティ制を定着させ学会自身が国際競争力をつける上で,機会は平等,結果には 差が出て,アクティブなものがより利益を得るという,良い意味でのフェアネ スを追求できる仕組み作りを考えることも必要な時期にきたのではないかと思 う.


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