The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


ネットワーク時代と学会

監事  塚田啓一

ネットワーク時代になってもう10年になろうか,近ごろあらゆる事務処理のスピードが速くなり,あっという間に済んでしまうことが多くなった.

 学会という構造は郵便の発達とともに成立したといわれている.研究者は論文を書くと,その内容に興味のありそうな人に郵便で送りつけたのである.送る相手は,良い意見を言ってくれそうな人,発明や発表の優先権を主張しておきたい人,パトロンになってくれそうな人を選んで送る.そしてそれを受け取った人は興味があれば,郵便で応答し,研究を育てていくのである.

 この構造をまとめて面倒見ようということで発生したのが学会であり,興味のありそうな人のリストを持っていて,論文誌として,定期的に配ってくる.配るに際して,余りひどい内容のものは,避けたいということで,査読というバリヤを設けて,チェックすることにより,論文誌としての権威を保っており,我が学会はこの面で定評があるところであることは大変な財産である.

 ところで,最初に書いたように郵便の機能のうち,書いた論文を興味のありそうな人に配りレスポンスを受け取るという機能のスピードが上がってくると,論文誌に残っている価値は査読だけになる.ところが査読もやめてしまえ,知っている興味のありそうな人には直接送りつけ,同時にネットワーク内の掲示板に公表し意見を出してもらえばいいから査読など要らない,という極論が現れる.この極論はいろいろ欠点があるから欠点をカバーし,まとめて面倒見てやろうというエージェントが既存の学会の外に発生するかもしれない.ネットワーク社会は最初はボランティア,囲い込みができたら「標準」というやり方ができるから,早い者勝ちである.このような環境に慣れた研究者は既存学会への帰属意識はなく,会員になるチャンスがないままある時期を過ごしてしまうから,新入会員は激減する.

 しかし既存学会にもチャンスがある.例えば4万人規模の会員を持ちウェブサイトの充実してきた我が学会が手をつければかなり広い領域をサービスできる仕掛けが完成できよう.印刷した紙ベースの論文の扱いやすさは,新聞・雑誌の扱いやすさと同じで認める.そのときは個別にプリントアウトすればいいので,全員に配るという形は時間の問題であろう.

 先日,厚さ5センチの当社の電話帳を取り上げられてしまった.初め抵抗はあったが,コンピュータ化に慣れてしまえば検索,リンクなど格段に便利で手放せない.

 参考文献をクリックするとリンクがとれる.全文検索は当然,大勢の読者の講評も読めるというディジタル化した学会刊行物への変革は意外に早いのではと思う.


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