The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


「学会」の変革――IT革命の中で――

会 長 青木 利晴

 新年,あけましておめでとうございます.

 昨年は,ビジネスサイドから見ますと,インターネットビジネスの光と陰を目の当たりにした1年間でした.明けて本年は,ネットバブルを経て,産業界にとっては単なるブームによるIT導入や業務効率化のためのIT化から,本当の意味でIT革命を興せるかどうか正念場の新世紀を迎えたといえます.本学会はIT革命の中で何を期待されているか,二,三の話題に触れたいと思います.

 Linuxの登場は,今後の技術開発を考える上で,大変示唆に富んでおります.つまり,技術的な革新性よりも,世の中の価値観の変化が開発のプロセスに大きく影響を与えて登場した技術という意味で,何十年もの技術史を見ても他に類を見ません.たしかにこれから先も,従来の意味での技術革新が大きく世の中を変えることは間違いありません.しかしながら一方で,ビジネスや世の中の価値観の変化が,技術開発に大きな力を与えるということを十分認識すべきでしょう.

 また会長就任時のごあいさつで申し上げたことですが,技術はそれを本当に役に立てるようにするには,それを利用したビジネスや,世の中がそのビジネスを受け入れやすくする規制,制度や習慣がバランス良く発展しなければならないと思っています.

 電子商取引を例にとれば,当初それを推進してきたのは,通信プロトコルの標準化や通信機器の高速制御等,インターネットを実現する「技術」でした.その後,インターネットで商取引が進んでくるとその安全性やプライバシーが問題となり,インターネットに対する信用が低下しました.そのうち高度な暗号技術や認証技術がフィードバックされ,インターネットの商取引の信用が徐々に回復されました.しかしながら,法律上の問題や国際間の取り決めなどの課題が残っており,この問題は完全に収斂したわけではありません.

 新しい「技術」が推進役であり,核であることには違いありませんが,社会に密接な関係を持つ場合には,「技術」,「ビジネス」,「ルール」の均衡がとれて初めて世に貢献することになります.我々技術者自身がそのことを認識して推進する必要があります.今まさに,技術開発の視点をとらえ直す時期にきていることを感じます.

 では今の時代に求められる人材は,どう考えればいいのでしょうか.いつの時代も専門家の育成が重要であることには変りはありません.前述しましたようにこれからは,従事する技術の社会的影響を考えながら,広い見識に基づいて将来を洞察できるような人材を育成する必要があります.そして今までの教育はどちらかというと問題解決能力に秀でた人間を作り,目標設定能力や総合力がおろそかにされてきましたが,今後は価値観の変化などを見通しつつ将来の目標を設定できる能力の啓発が一層重要になります.

 学会はこの変化に対応できているでしょうか.世の中の期待にこたえているでしょうか.学会は最も先進的なテーマを研究討論する場であるにもかかわらず,個々の研究者の先進性に比べて体制や運営が遅れていると感じています.最先端の研究に取り組んでいる研究者の活動を更に活発化するよう,またIT革命といわれる中で,関係の技術者の代表として世に貢献するよう一層努力をしたいと思っています.

 以上,本学会がますます発展するよう改革を図っていく決意でおります.本年もどうぞよろしくお願いします.


IEICEホームページ
E-mail: webmaster@ieice.org