The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


関連学会の連合・統合の夢

基礎・境界ソサイエティ会長 中村 僖良

 新しい世紀を迎え,漠とした期待と多少の気懸かりとが入り混じった複雑な気持ちを抱いている.これからの100年,人類はどのような試練に遭い,また科学技術はどのような進歩を遂げるだろうか.19世紀から20世紀への移り変りの時期には,その後の科学技術の発展に大きな影響を与えた重要な発見,発明が相次いだ.そしてこの100年の間に科学技術は長足の進歩を遂げ,学問分野の細分化が進んできた.各分野の一つ一つの技術革新が科学技術全体の進歩発展を担っていくことは今後も変りがないだろうが,21世紀の科学技術の課題には,多くの学問分野を結集し相互の連携の下に総合的に研究開発を進めなければならないものが多い.

 本学会を取り巻く環境はこの10年の間に大きく変化している.国際化,グローバル化の波は経済のみならず学問の世界にも否応なく押し寄せており,学会間の世界的大競争の時代が到来しているといっても過言ではない.インターネットの普及はこれに拍車をかけている.世界中のどこからでも学会のホームページにアクセスし,情報を得たりオンラインで最新の論文が見られるようになってきた.グローバル化により,これまで以上に論文誌の世界的レベルでの格付けが進み,インパクトファクタの高い有名論文誌に掲載された論文ほど高く評価される傾向にある.ローカルで格が低いと見なされた論文誌からは自ずと優れた論文が逃げていくことにもなる.本学会にとって国際化は避けて通れない道であろう.

 我が国には電気,電子,通信,情報の関連分野だけ見ても大小幾つかの学会が存在している.歴史的には,学問が分化してきたのだから自然の成り行きともいえるが,我が国の学会が世界に向けて発信しその存在をアピールするためには,関連学会が互いに手を携えて連合・統合することが望ましい.

 各学会には,会員のみならず分野や活動範囲にかなりの重複がある.関係するすべての学会に加入したり,関連する集会にすべて参加するといったことは,経済的にも時間的にも難しい.最近,総合大会やソサイエティ大会に経験豊富な指導的立場の研究者の姿がめっきり減り,大会が面白くなくなってきているという声をよく耳にするが,このような傾向は,同じ専門分野の研究発表の場が余りにも多くなり,参加者が分散してしまうことが一因ではないだろうか.

 幾つかの似たような学会が独立に活動していることは,外国から見ても大変分かりにくい.現にIEEEから日本の学会に対する事業協力の申し入れは,関連する幾つかの学会に対して個別にかつ並行になされているのが実状で,当然のことながら学会ごとに対応がまちまちになりがちである.また外国人が入会や論文投稿に際して戸惑いを感ずるだろうことも想像に難くない.多くの困難はあるだろうが,関連する諸学会が連合し,一つの統合体を作れないものだろうか.新しい世紀を迎えた今,その気運は十分高まっているように思われる.この機を逃してはならない.


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