The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


技 術 予 測

調査理事 村上 仁己

 技術者/研究者の仕事の一つに,技術予測がある.技術予測の正確さが,関連ビジネスの勝敗を決定づける,といっても過言ではない.筆者が従事している通信の分野でも,過去に大きな技術の変革(もしかして革命といってもいいかもしれない出来事)があった.例えば,国際通信インフラにおける,1970年代の短波から衛星への移行,1980年代の同軸海底ケーブルから光ファイバ化がそれであろう.最近では,回線交換からパケット交換,あるいはOSIからインターネットへ,など通信方式の分野での変化が多く発生し,それに起因したビジネスの盛衰が起っている.これら過去の技術的変化を見ると,まず,とにかく伝送路の大容量化,次に使い勝手の良いネットワークが市場の求めるものであった.

 このような技術の変化は必ずしも事前に予測され,順調に行われたものではない.新しい技術の選択は,シビアにその実現性と特性が評価され,古い技術を押しのけての結果である.それは,新旧技術,あるいは,異なる技術との戦いでもある.

 では,これからの情報通信技術はどのような方向に進展してゆくのであろうか.特に経済の閉塞感のある現在,我々技術者/研究者は,その解を出すことが求められている.これらの解を出すのに,
 (1) 環境問題
 (2) 人口問題(つまり老人大国への移行)
そして
 (3) 社会・経済のグローバル化
は避けて通れない命題であり,これらの問題解決への具体的貢献が情報通信技術者/研究者の直近の責務である.これにより情報通信は真に社会のインフラになってくるものと思っている.

 このような,現在我々が直面している問題を解決する技術は,必ず数年後,あるいは数十年後かもしれないが,実用化される.これら技術は,そのタイミングで急に開発されるものではなく,既に現在,世界のどこかで地道な研究開発が行われているものであり,それが後になって,古い技術を打ち破り,世に出てくるものであろう.我々技術者/研究者は,常にこれからの世の中の変化,企業のニーズそして大衆という個々人の嗜好の流れを読み取り,タイミングを誤ることなく,古い技術と戦いながらその時代が必要とする技術を市場に提供する責務がある.いろいろ大きな障害が出てこようが,常に元気良く前向きに取り組んでいきたい.

 なお,本稿を書くに当たり,筆者の5年前のノートを見てみた.現在,降盛を極めているインターネットや移動体通信,ましてや無線LANの応用であるホットスポットを示唆する情報は,残念ながら私のメモにはなかった.恥ずかしい限りである.本会会員の皆さんはいかがですか?


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