The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


企業の技術管理職のみなさんへ

副会長 小山正樹

 どの国にとっても電子情報通信技術は今世紀の社会基盤を支える重要な技術であると認識されて久しい.ところが,本学会をはじめいわゆるIT関連の学会の伸長は国の内外を問わず停滞しているか,あるいは会員数が減少しているところすらある.この原因の分析をどの学会も行っており,本学会でも幾度となく会員増強策が考えられまた実行に移されてきた.しかしながら,その効果はもう一つで会員数が増加に転じたという話を本学会を含めてどの学会でも聞いたことがない.ここでは個人的な経験から今一度本学会の会員増加策について述べさせて頂きたい.

 まず,学会というものの存在を知るのは一般的には大学生のころであろう.特に4年生になり大学の研究室に配属されるときとか大学院に進学するときに研究室の先輩とかあるいは指導される先生から「学会に入りなさい」と半ば強制されて学会の会員になるわけである.これは現在でも変りはないであろう.実際,本学会でも毎年相当数の学生会員が誕生しており,これは増加傾向にある.問題はその後である.大半の学生は大学を卒業あるいは修了すると会社勤めを始めるわけであるが,このときに行方不明となる人が多い.すなわち,大学から会社に移ると当然住所が変更されるわけであるが,このトレースが大学においてもまして学会においても容易ではない.結果的に学生会員から正会員にスムースに移行できず,せっかく大学で学生を入会させてもそれが全体としての会員の増加に結びつかないということになってしまう.この問題を解決すべく,今年から本学会でも年明けから学生のフォロー体制を敷いており,相当数の学生会員を正会員にグレードアップできたと聞いている.

 しかし,もっと本質的なことは企業で働く技術者・研究者が学会を意識しなくなって久しいことが大きな原因であろう.心ある管理者が「学会に入りなさい」と単に勧誘しても,部下がそのメリットを見いださなければ今やなかなか学会には加入しないというご時勢であるといわれている.反対に,入社して間もないころ
 ・ 「学会活動するくらいなら会社の業務をしっかりしなさい」
 ・ 「論文を書きたければ家で書きなさい」
 ・ 「学会論文は会社の業務に関係ない,読む必要はない」
と上司にいわれた経験を持つ人も多いはずである(私の場合は全く反対であり,上司は学会に非常に理解があったが).すべての会社がこうとはいわないが,多かれ少なかれ会社ではこのような雰囲気があることは容易に想像できる.これが続けば学会軽視の風潮が社内に広がるのは当然である.

 しかし,どの会社でも短期的にはそうでも長期的にみれば,学会活動,特に技術者・研究者の論文執筆と投稿は会社にとってプラスであることは疑う余地がない.それにもまして,論文を書き学会に投稿しそれが採録されることによる個人の満足と自信は会社にとってもその後の大きな財産となる.企業で働く技術管理職のみなさん,この際もう一度自分の部局を点検し,「学会に入りなさい」と単に勧誘するのではなく,実質的に論文を書き本学会に投稿するよう部下を鼓舞して頂きたい.すなわち,「論文を書きなさい」といつも部下にいい聞かせて頂きたい.論文誌は決して大学人と学生の学位のためだけにあるのではない.企業人も大いに活用すべきだし,そうすることが個人はいうに及ばず会社そして結果として学会の成長に役立つと思う次第である.


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