The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


だれがための学会,これからの学会とは

会計理事 安田 浩

 タイ国プケット市で開催された,ITC-CSCC 2002(The 2002 International Technical Conference on Circuits/Systems, Computers and Communications)に参加した.日韓で行われていた学会が,最初に日韓以外で開催された記念すべき大会であり,かつ参加者数が倍増したという,画期的な大会でもあった.600件の講演を収めた厚さ約15cmのプロシーディングを,肩が抜けそうになりながら大学まで運んだことは愛嬌であった.熱気のある大会に参加し,こんなにも学会を愛する人がいるということから,当会の運営責任を預かる身としての責任を痛感した時間でもあった.

 多数の参加者があった理由の一つとして,開催した場所が良かったということは言えよう.普段簡単には体験できない地域との交流は,人間の本性的な要求であり,学会の機会にそのことを実現することは,学会本来の目的からは逸脱するかもしれないが,人間を磨くという観点から許されることと考えている.それでは学会本来の目的とは何であろうか.@最先端学術成果を開示すること,A同じ分野の研究者と情報交換すること,B自己の研究する分野以外の全体像を概括的に把握することが,3大目的と考えている.

 この学会の3大目的が,近年インターネットの発展により,揺るがされているといわれている.@最先端学術成果を開示することは,Webを使って発表する方が早いようにも見えるし,A情報交換は,情報交換サイトに参加する方が,物理的移動を伴う学会よりも,簡単で効率が良さそうに思える.更にB他分野把握で言えば,ネットサーフィンすれば,簡単に他分野の情報も集められそうにも思える.つまり学会がなくても,Webが代替をしてくれそうな様相なのである.

 確かに少し前までのように,講座ごと・学会研究会ごとにしかホームページがなく,情報源数が少ないときには,Webも効用は大変なものであった.しかしながら教員・学生それぞれがホームページを開設し,情報源数が膨大となると,個人の力ではすべての情報を見ることは困難となってきた.この状況は,出版と似ている.本の数が少ないうちは,本屋で自分で見て気に入った本を手に入れることができた.出版数が増えて店頭に全部並ばず,例え並んでも全部見られない状況では,結局書評に頼って最適な本を探さざるを得ず,結局素晴らしい本に巡り合えない状況も生ずる.

 本の世界は,素晴らしい本に巡り合えなかったで済まされるが,学術の世界ではこのようなことは許されない.地球の裏側では既に研究済みの話を,遅れて独立に研究しても,独立に発想をしたから能力はありそうと評価される可能性はあるが,成果・努力そのものは無意味である.もっと早く情報を得て優秀な力を別な方向に使うべきであったのである.すなわち,すべての情報を把握し,ダイジェストしてくれる存在が,やはりインターネットの時代にも必要なのである.

 ここに学会の新しい目的がある.だれよりも早く評価してくれる存在,だれよりも有効な議論の場を提供してくれる存在,そしてだれよりも正しくかつ簡単に周りの分野をダイジェストしてくれる存在が,学会なのである.そしてこの能力のある学会ならば,あなたの成果を正しく評価し,正しく世に伝えてくれ,あなたの信頼に足る存在となるのである.この目的を達成するためには,学会が世界に対し最も太いパイプを持ち,かつ情報処理能力にたけていなければならない.それにはIT力の活用が肝要である.育ちつつあるソサイエティの若い力にIT化を加え,あなたの役に立つ学会を,何とか早く構築したいと考えているこのごろである.


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