The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


多視点知識専門集団と知識増幅型ネットワークの構築

調査理事 木戸出正継

 電子情報通信学会が多視点専門知識集団を形成し,知識増幅型ネットワーク活動を展開することを期待する.

 これまでの欧米が歩んできたように,我が国も大量生産・消費社会から付加価値創造・知識創造社会に入ったといわれる.社会全体の効率を上げるため,人々の平均点を上げ全体で一丸となって高さを追求して,それなりの成果を納めてきた.しかし,この環境のまま付加価値を創造していくことができるかは,疑問である.欧米社会を見習うことがすべてではないが,多様性を認め,個人の特徴を伸ばしていくような環境が必要ではないか.別の言い方をすれば,一極集中や大組織中心の考え方から地域分散やフレキシブルな組織への意識改革をし,そして個人の良いところを認め,性善説に基づく社会活動の進め方を身に付けなければいけない.

 このように新しい社会への変革は,専門知識集団の学会が先導して進め,身をもって社会に情報発信するべきである.そのために,現役ばりばりの専門家から,経験豊かなシニアから,全体は分からないが新鮮な若者から,あるいは圧倒的多数に対する異性の目から,そして専門知識は持たないが利用者としての一般人から,などの多視点からの意見交流が活発に行われ,これらの人々が集まることにより知識が増幅していく仕組みを含む学会が必要である.過去に行われた大会や研究会で,若い学生・研究者からの半熟の研究発表があり,経験の深い先生・技術者ができないことを指摘し,その考え方をだんだんと細めていくことがあった.これからは,幾つかの問題点も追求していけば,このように夢のある技術になりそうだと,建設的な議論展開をする場にしたい.従来の彫刻型でそり落としながらのアイデア形成でなく,粘土型で継ぎ足しながらの知識増幅を進めたい.個人の知恵の発掘と群としての知恵の増幅の仕組みを学会から見える形にしていきたい.他人の良い点を認め,自分の特徴を明確に主張し,仲間同士で知識を高め合うような集団にしたいものである.

 多視点専門知識集団と知識増幅型ネットワークの考え方の基本は,各個人能力の高さを維持できることとそれを表現できることにある.類は類を呼ぶ,集団のメンバー各個人はそのネットワークを維持していくために,自分の存在価値を高め,周囲からも認めてもらうことが必要である.日常活動の中での自己研鑽を常に心がけるべきである.凸凹を認め,個人の中にきらりと光るものを見つけ,社会全体でそれを大きく育てていく環境の見本が学会であろう.どんぐりの背比べ・船頭多くして船,山に登る・足の引っ張り合いなどはない,専門知識集団でありたい.グローバルな社会で勝ち残るためには,個のみの生産から個プラス群の生産増幅の仕組みを持った社会・環境でありたい.1+1が2以上になる,からくりを学会に含みたいものである.

 ITビジネス創造も,効率追求の一辺倒から脱却し無駄を容認して行いたい.100億のビジネスプラン1個の提案より,よりスピーディに10億のものを10個,あるいは1億のビジネスを100個,提案できる人とそれらを実践できる人の集団を育てる環境が必要である.大組織の硬直化から脱出し,動きやすい多様性を保った環境を,学会が見える形で社会に情報発信したい.これが社会の変化に俊敏に対応し,存在感を表現していける,多視点専門知識集団の学会で知識増幅型ネットワークを展開する姿であろう.


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